011─高等部二年─

 ズボン越しにじんわりとした熱が手に伝わってくる。キスをしてから、心なしか形を持ちはじめている怜くんの『ソレ』。

「えっ、えっ……ぼ、僕、絶対上手くないと思うよ!?」
「上手かったら、どこで練習したのか問い質す。手でする自信がないなら、口でもいいぞ」

 そんな無茶な!? でも変に手でこすってしまうよりは、口でした方が痛くないかな……? 歯が当たらないようにだけ、注意する必要はあるだろうけど。

「うぅ……じゃあ、口で、していい?」
「…………本気か?」
「怜くんがいいって言ったんじゃん!?」
「あ─、いや、俺としては願ったり叶ったりだが……言ってみるもんだな?」

 どうやら怜くんも手より口の方がいいみたいだ。
 僕もようやく決心して、接着剤で貼り付けられていたかのように、怜くんの中心にくっついていた手を離し、ズボンのジッパ─を下げた。
 下着から取り出した怜くんの中心は、平常時でも僕のより大きい。何を食べたらそんなに育つというのか。
 ソファに座った状態では無理があるので、僕は床に膝を着いた。自然と目の前に怜くんの股間が迫る。
 そこでふと、ゲ─ム主人公くんである七瀬くんの言葉が脳裏を過ぎった。

────『いい加減、ただ性欲のはけ口にされてるだけだって気付けよ!』

 どうして今思い出すんだと、軽く頭を振る。
 事実はどうであれ、それで怜くんが満たされるなら何の問題もない。
 難なく怜くんの中心に顔を近付ける僕を、怜くんがじっと見下ろす。

「抵抗はないのか?」
「ん……怜くんのだし……」

 両手でそっと竿を持ち上げると、ずっしりとした重みがあるように感じられた。多分、心理的な重みもあるんだと思う。
 銀髪の怜くんは、下の毛も当然銀色だった。
 そのせいか、何もしていなくても、怜くんの性器に汚らしさは感じない。僕は黒髪だから、脇とか出来るだけ処理してるけどね。
 元々肌が白いこともあって、怜くんは亀頭部分ですらピンク色だった。つい胸のある部分の色まで思い出してしまう。色素が薄いって羨ましい。

「眺めていても、どうにもならないぞ?」
「そ、そうだよね!」

 気付けば、まじまじと観察してしまっていた。
 心を新たに、顔を接近させる。怜くんに分からないよう、少しだけ鼻から息を吸い込むと、汗っぽいような、けど汗とは違う臭いがした。これが一番濃い怜くんの体臭かと思うと、心臓がドキドキする。……なんか僕、変態さんみたいだ。
 両手で竿を持ち上げつつ、根元に舌を当てる。そして唾液で濡らすことを意識しながら、ゆっくりと裏筋を舐め上げていった。

「んっ……れろ、れ……」

 舌の上に唾液を溜めては、亀頭に垂らす。竿を舐めただけで、口周りはベトベトになっていた。
 はぁ……と僕が湿った息を吐く頃には、怜くんの中心も硬くなっていて、拙いながらも興奮してくれているのが嬉しい。
 滑りが良くなってきたので、両手で輪っかを作って竿を包み込んだ。親指で裏筋を軽く押しながら撫でる。
 同時に亀頭を咥えてみるけど、一気に口内に入れるのは無理だった。せめて、と舌で頭頂部を舐め回す。

「っ……保……」
「んっ……んっ……」

 怜くんに頭を撫でられて、もっと頑張らなきゃと思った。自然と鼻から声が漏れる。
 尖端を咥えながら、手を動かすのも忘れない。今の僕に出来る精一杯だ。これでも怜くんがイクのは難しいかもしれない。けど、だからといって諦めたくもなかった。
 亀頭で舌先を転がしていると、くにゅっと舌が沈む部分がある。尿道口ってこんな感じなんだ……ちょっと塩っぱい。抵抗感は全くなかったので、何度かくにゅくにゅと舌先を中に進入させた。
 途端、僕の頭を撫でていた怜くんの手に力が入る。

「ふっ……」
「ぁ……痛かった?」
「いや、痛くは……ただもっと刺激が欲しい」

 言うなり、怜くんは背を丸めると、竿を握る僕の手の上に、自分の手をのせて動かしはじめた。

「もう少し、きつくしてくれていい」
「う、うん……」

 唾液のおかげで、大分滑りは良くなっていた。怜くんが望む手の動きを模索する。

「保、口がお留守になってるぞ」
「はい……」

 同時進行って難しいよね! 他の人たちはどうやってこなしているのだろうか。
 再度亀頭を咥えたところで、更に声がかかる。

「そのまま、こっちを見られるか?」
「んぅ?」

 なんだろうと、顔を角度を変えて怜くんを見上げた。濡れた碧い瞳と目が合う。その海のような瞳が、いつになく興奮しているようで、とても色っぽくて……僕は見惚れた。

「エロい顔」

 どっちが!?

「舐めながら、俺を見ろ。あぁ、舐めるときは、舌を出してな」
「ん……れろ……こう?」
「そうだ……おいしいか?」
「なっ!?」

 何を言い出すんだろうか、この人は!? しかも凄く楽しんでいるように見える。こんなに顔が緩んでる怜くんは希少だ。

「おいしいって言いながら舐めてみるといい。その内、錯覚してくる」
「それは……いいことなの?」
「試してみれば分かる」

 どうやら僕がそうすることがお望みらしい。怜くんが喜んでくれるなら……まぁ、やらないこともないけど。
 戸惑いを残しつつも、怜くんを見上げながら、舌を伸ばす。そして怜くんのカリ部から亀頭を一舐めして……。

「おいひい……」

 と口に出す。怜くんの目が細められたのを見た瞬間、全身が羞恥に駆られた。ぶわっ、と顔全体にも熱が広がるのを体感する。

「何これ! すっごい恥ずかしい!」
「やるまで気付かないのが、お前らしいな」
「うぅ……怜くんは楽しそうだね……」
「楽しいからな」

 それは何よりです! 僕は恥ずかしいけど!

「ほら、サボるな。時間は限られてるんだからな」
「もうおいしいとか言わないからね」
「それは残念だ」

 残念だという声も、大して残念そうには聞こえない。こういうのが怜くん好きなのかな。覚えるだけ覚えておこう。またするとは限らないけどね!
 気を取り直して、口を開く。
 そろそろ口も慣れてきただろうかと、カリ部まで咥え込んでみた。

「んむ……ぅ」
「無理はするなよ」
「らいひょ─ぶ……」
「口に入れたまま喋るな」

 歯は当たらないように気を付けてるから安心して欲しい。
 ぢゅっと口の端から流れ出そうになる唾液を吸い込むと、握った手から、竿が脈打つのが伝わった。
 そうか、吸えばいいのか。
 感じてくれたのがダイレクトに知れて気分が良くなる。
 苦しいのは苦しいけど、手を動かすことも忘れず、僕は頭を上下に動かした。

「ぢゅっ、ぢゅぷ……っ……んんっ」

 僕ではカリ部までを咥えるのが限界だけど、次第に怜くんも腰を振りはじめる。竿が揺れて口を外してしまうときがあるものの、亀頭に縋り付くようにして何度も咥え込んだ。

「あふっ……んっ、んっ」

 激しく頭を動かすほど、カリ部と口内がこすれてグポグポと空気音を鳴らす。合わせて自分の口が立てている水音に、耳を犯された。

「ちゅ、ぢゅっ……はっ、ぅん、んっく……」
「たもつ……っ」

 怜くんの掠れた声や荒い息が聞こえる度に、僕も体が熱くなる。うん……なんか、すごく、エッチな気分。
 実際エッチなことをしているんだけど。熱に浮かされて、頭がふわふわする。
 頭にある怜くんの手に力が込められると、僕まで煽られた。額に汗が滲む。熱が中から湧き出ているのが感じられて、より一層、口淫に没頭した。

「んくっ、ぢゅっ、ぢゅっ……ぅんんっ」

 目を閉じ、頬を窄めて怜くんの亀頭を吸う。
 大きく舌で円を描くように尖端を舐め回していると、口から溢れた唾液が下に伝っていく。
 手は唾液と汗でぐしょぐしょになっていた。怜くんの中心から発せられる熱と、重ねられた手の熱に挟まれながら、懸命に竿を扱いた。

「ふっ、く……たもつっ」

 名前を呼ばれたと思ったら、ふいに肩を強く押される。
 一瞬の内に口が解放され、顔に液体がかかった。

「は……ぁ、悪い……。少し待ってろ」
「…………」

 手の中でビクビクッと脈打つのを感じた。
 次いで青臭さが鼻につく。
 頬から垂れ落ちた液体が、ソファ─に落ちる音を聞いて、顔射されたんだ……と実感した。
 呆然としてる間に怜くんは席を立ち、片手に濡れたハンカチを持って戻ってきた。

「目を閉じて、じっとしてろ」

 言われるがままに目を閉じる。怜くんがティッシュを大量に取るのを音で聞いた。そのまま顔を拭かれる。粗方拭き取ると、今度はハンカチを押し当てられた。ハンカチで前髪を撫でられて、そこまで精液が飛んでいたのを知る。

「大体は拭けたと思う。少なくとも垂れることはないだろ。顔、洗ってくるか?」
「うん……行って来る」

 まだ頭がふわふわしているのを感じながら、給湯室へ向かった。顔を洗って、持っていた自分のハンカチで拭う。
 一段落すると喉の渇きを覚えて水をあおった。使い終わったコップを洗い、新しく水を入れてソファに戻る。

「怜くん、水」
「あぁ、貰う。……大丈夫か?」

 僕が顔を洗っている間に、怜くんは身なりを整えたようだった。まるで何事もなかったかのように見える。
 水の入ったコップを渡して、僕も隣に座ると腰を抱き寄せられた。

「怜くん?」

 肩に怜くんが顔を埋める。水を飲んで冷えた怜くんの唇が、首筋に当たった。

「このまま午後はサボるか」
「……ダメでしょ」

 第一それじゃ何のために急いでいたのか分からない。途中、時間の感覚なんてなくなっていたけど。

「はぁ……どうせ、あと五分もすれば眞宙がお前を迎えに来るだろうしな」

 僕の視界の外で時計を確認したのか、怜くんはそう言うと腕に力を込めた。どこか甘えたような雰囲気に、怜くんらしくないなぁと思いながらも笑みが漏れる。気付いたときには、自分から怜くんの背中に手を伸ばしていた。
 よしよしと僕よりも大きい背中を撫でる。

「僕もずっとこうしていたいけど」
「そうか」

 頷きながら、怜くんは体重をかけてくる。僕では到底支えきれなくて……。

「ちょっと怜くん! ダメだって」
「あと五分」
「寝起きじゃないんだから……」

 結局そのままソファに押し倒された。
 何が切っ掛けだったのかは分からないけど、妙に可愛らしい怜くんの姿に、顔がニヤけるのを止められない。
 五分後、時間通りに眞宙くんが迎えに来るまで、僕は怜くんの頭や背中を撫でていた。


◆◆◆◆◆◆


「幸せそうだね」
「えへへ」

 廊下を歩きながら発せられた眞宙くんの言葉に、自分でも気持ち悪いくらいの笑みが漏れる。
 怜くんとは一つ前の角で分かれた。

「腰とかお尻は痛くない?」
「うん? 全然痛くないけど」
「じゃあまだ無事なんだね」
「うん?」

 質問の意図がよく分からないものの、眞宙くんは安心したようだ。しかしその後に続いたのは溜息だった。

「食堂での一件の後だから、締まりのない表情のまま教室に行っても、誰も不思議には思わないだろうけど……」
「僕、そんな緩い顔してる?」
「してる」
「…………」

 即答されて、自分で自分の頬を抓む。

「もう一回顔を洗ってきた方がいいかな……」
「もう一回?」
「ううん、何でもない!」
「顔を洗うようなことをしてきたの?」
「そこ掘り下げないで!」
「してきたんだね……」

 ジト目で見つめられた。うっ、そんな悪いことはしていないはずなのに。……生徒会室ですることではなかったけども。

「その様子だと、着歴もまだ確認してないんじゃない?」
「着歴? ……わっ! チャットのメッセ─ジ件数が凄いことになってる!」

 また三桁まで増えていた。
 ざっと内容に目を通すと、食堂での七瀬くんとの言い合いを皮切りに、怜くんに抱き上げられて食堂を出る写真が大量に送られている。全て合わせると三六〇度分あるんじゃないかとすら思える数だ。

「立体模型が作れそうだね」

 一緒に画面を見ていた眞宙くんが呟く。

「一応、ガス抜きは出来た……のかな?」
「怜と保が出て行ったあとの食堂の雰囲気を見ても、成功してると思うよ。二人の姿が見えなくなった後に、歓声まで上がってたから」
「歓声!?」
「ほら、似たようなのが、メッセ─ジでもたくさん送られてる」

 眞宙くんの綺麗な指先が示すメッセ─ジを読む。

『流石我らの隊長です! 七瀬なんかに負けませんね!』
『前日のお姫様抱っこは練習で、今日のが本番だったんですね!』
『末永くお幸せに……!』
『隊長の告白、とても感動しました! 僕もあんな風に気持ちを思いっきり伝えたいです!』
『ブ─ケトスを楽しみにしています!』

 所々、結婚が決まったようなメッセ─ジがあるのは気のせいだろうか。
 けれど送られて着ているメッセ─ジのほとんどが、好意的に僕を応援するものなのは確かだ。

「本人を前に熱烈な告白をした後に、お姫様抱っこされての退場だからね。食堂は後の方が凄い騒ぎだったよ」
「熱烈な告白……? お姫様抱っこ……?」

 眞宙くんの言葉で、はじめて食堂での自分の行動を振り返った。そう、確かに怜くんが食堂に到着したぐらいに、僕は……。

「わぁ─!!?」
「保!?」

 思いっきり嫉妬するだの、好きだのと言い放っていた。いつも大好きだとは伝えているけど、明らかに普段とは違う真剣なト─ンだった。それを怜くんに聞かれてたんだ。
 しかも自分視点では抱き上げられたという認識でしかなかったけど、傍から見たら、それはお姫様抱っこでしかなく。
 今更恥ずかしくなって、その場に蹲る。

「保、顔が真っ赤だよ」
「ううう……」
「大人しく、教室では皆の生温かい視線に耐えようね」
「うぅ……」

 やっぱり午後の授業、サボっちゃダメかな。