002柳沢くん視点─高等部一年─

 放課後は、生徒会室と風紀委員室の間にある、会議室という名の空き教室で待機するのが、日課になりつつある。
 それは生徒会役員である眞宙様の親衛隊長の南くんも同じようだった。いくら親衛隊長と言えども、お仕事の邪魔は出来ないッスからね!

「柳沢くん、お疲れ様です」
「ウッス」

 先に使われていない会議室に着ていたオレに向かって、ドアを開けた南くんが挨拶をしてくれる。軽く彼が頭を下げると、一緒にふわふわの髪が揺れた。今日の南くんも可愛いッスね!
 オレたち一紗様の親衛隊が、右側のスペースを陣取っているのを見ると、南くんたち眞宙様の親衛隊は、左側のスペースに移動する。
 南くんとあまり身長の変わらない子たちが一緒に移動するのを見て、誰にでもなくオレは頷いた。眞宙様の親衛隊には、可愛い子が多いって話は嘘じゃないッスね!
 類は友を呼ぶのか、眞宙様の親衛隊員はこぞって小柄なイメージがある。対して、我らが一紗様の親衛隊員は、自分を含め体格が大柄な人間が多かった。今みたいに親衛隊の人間がグループで集まると、特色が一目瞭然ッス。
 放課後になると、親衛隊員は複数人で行動することが義務づけられているので、廊下とかでも見受けられる光景ではある。けれど、ここまで対比がハッキリと見て取れることはあまりなかった。

 待ち時間の間は、めいめい好きなことをして時間を潰す。
 ただこの時間に親衛隊員を巻き込んでしまうのは、心苦しかった。
 一紗様も眞宙様も、親衛隊員がゾロゾロと自分の周りを囲むのを好まれない。だから傍に寄るのは親衛隊長の一人だけという取り決めが成されていた。
 だから風紀委員の仕事が終われば、自分は他の親衛隊員と一人別れて、一紗様の傍に付くことになる。
 今、一緒にいる親衛隊員は、待ち時間の間、自分を一人にしないためだけにいてくれているのだ。それは眞宙様の親衛隊員も同じで、南くんを一人にしないために、ここにいる。
 手間をかけさせていると思う。
 小動物を思わせる南くんならまだしも、自分は武道の心得があるのに、一人で行動出来ないなんて。
 それもこれも学園内に流れている良くない噂が原因だった。

 唯一の例外は怜様の親衛隊長である湊川くんッスかね。あの人だけは親衛隊員を連れて歩いているところを見かけない。
 湊川くんの場合は、怜様や眞宙様が常に目を光らせてるんで、他の親衛隊員の出る幕がないってだけッスけど。
 数居る親衛隊長の中でも、彼だけは異質だった。
 親衛隊長でありながら、想い人と対等な立場を築けているなんて……自分では考えられない。
 親衛隊がいるだけはあるッスね。本人は未だ知らないようッスけど。

 湊川 保の親衛隊は、別名『怜様と保様の仲を見守り隊』と名乗っている。その名の通り、見守ることが目的なので、特に本人には存在を気取られないようにしているらしかった。知ってる人は知っている、内部生の間では有名な隠れ親衛隊だ。
 気持ちは分からないでもないッス。
 黙って二人が並ぶ姿は、とても絵になるのだ。しかし一度湊川くんが口を開けば、見ている方はいつ怜様の雷が落ちるのかとハラハラさせられる。
 鳳来学園において、二人に勝るエンターテイメントはなかった。
 湊川くんは一紗様に負けず劣らずの美人さんなのに、結構な天然さんッスから、まぁ見ていて飽きないッスよね。

 湊川くんとは南くん同様に、親衛隊長という同じ立場にあるおかげか、高等部に入ってから格段と接する機会が増えたのもあって、今や友人とも呼べる間柄だ。
 裏表がない性格を好む一紗様が、湊川くんを気に入ってるのも知っている。やっぱり湊川くんのように華奢な子がいいのかと思うとヘコむッスけど。
 ぜひ怜様とはこのまま仲睦まじくいて欲しいッス。
 窓の外を眺めながら、つらつらと思いを馳せる時間は、スマホに着信が入るまで続いた。