001南くん視点─高等部一年─

「怜様、格好いいー!」

 ボクが眞宙様の少し後ろを歩くように、怜様の後ろを歩く保くんが声を上げる。
 その結果、朝から怜様に睨まれているけど、保くんに物怖じした様子はなかった。……ボクなら卒倒してしまいそうですが。
 流石、幼稚舎からの幼馴染みです。
 ボクも幼稚舎から鳳来学園に在籍していますが、眞宙様とお話が出来るようになったのは高等部からでした。だからか、幼馴染みである彼らの関係を羨ましく感じるときがあります。
 ジャレ合うお二人を、眞宙様が優しく見守られている姿を見ると特に……。

 私立鳳来学園高等部における親衛隊長は、冠する人物の同級生から選ばれるのが通例です。
 中等部まではこんな風に親衛隊が組織化されることはないんですが、高等部からは寮生活になるため、このような仕組みが出来たそうです。

 隊長の選出方法は、各親衛隊で変わり、ボクの場合はジャンケンで決まりました。眞宙様の親衛隊長になるには、運も必要だということで。
 保くんは流石というか、満場一致で任命されたみたいです。学園内の最大派閥である怜様の親衛隊の皆様に選ばれるなんて……話を聞いたときは驚きを隠せませんでした。
 けれどすぐに納得も出来ました。
 だって保くん以外に、考えられないですから。

 保くんが怜様に好意を寄せているのは、周知の事実です。
 本人も普段からよく口にしていますし。
 怜様もそんな保くんから距離を取っていないところを見るに、保くんの気持ちを認めていることが窺えます。それは鞄を保くんに預けていることからも分かること。ボクが眞宙様から鞄を預けられることなんて、きっと一生あり得ませんから。
 眞宙様は誰にでも分け隔てなく笑顔を向けられますが、その実、怜様と保くんにしか、心を許していないことをボクは知っています。
 そんな眞宙様にとっても大切なお二人の間に、人を入れるなんて野暮でしかないです。無理を通した結果、怜様や眞宙様に睨まれようものなら人生が終わることは必至ですよ。

 何よりお二人はとてもお似合いです。
 先ほどは羨ましく感じましたが、眞宙様が見守られる気持ちもよく分かるんです。
 怜様の容姿がお美しいのは言うまでもありませんが、保くんも大変可愛らしいんです! 黒蜜のように濡れた目を、ぱっちり開けて喋る姿はチワワに似ていて、ついサラサラの髪に手を伸ばして撫でたくなります。
 またチラリと見える口元のホクロが扇情的で……。
 保くんとは中等部からのお友達なのに、喋っていると未だにドキドキするときがあります。怜様を見る目がたまに切なげに細められると、ギュッと抱き締めたくなるときも。

 ハッ! いけません、ボクは眞宙様の親衛隊長なのに!

 そう思いながら、チラリと眞宙様を見上げると、にっこりとした笑顔を向けられました。
 瞬間、周囲の人垣からは黄色い声が上がるものの、ボクの背筋には冷たいものが流れる。眞宙様の魅惑的な夕焼け色の瞳が、笑っていない。……もしかしてお仕置き事案になってしまったでしょうか。
 眞宙様は保くんをとても大事にされているため、保くんに向く邪な目に厳しいんです。
 しかしながら眞宙様からのお仕置きに、少し期待しているボクがいました。浅ましいと、自分でも思います。
 けど好きな人が、その間だけはボクだけを見てくれると思うと、体がゾクゾクしてしまうのを否定出来ません。