004

「君はやっぱり頭がいいな。もしかして人間の言葉が分かるのか? ……いくらなんでもありえんか」

 オレがおっさんに追いつくと、彼は嬉しそうに破顔した。
 ヘビや動物たちが懐いてきたように、オレのテクにおっさんも絆されたんだろうか? オレが異能《ユニーク》種なら催淫効果も上がっているはずだしな。

 ちなみに人間だけじゃなくて魔族の言葉も分かるぞ。魔王の右腕を務めたぐらいには、魔法にも精通してたからな。翻訳魔法は便利で助かる。……あれ? そういえば前世で覚えた魔法も普通に使えてるな、オレ。
 くそっ、何故硬化魔法を覚えておかなかったんだ……! 遠距離攻撃のが性に合ってて、近接系の魔法を無視したのが来世で仇になるとは!
 硬化魔法は文字通り、体を硬化させられる補助魔法だ。
 ピンクスライムの体を硬化出来たら、もしかしたら肉棒も作れるかもしれない。
 流石にピンクスライムの魔力じゃ、攻撃魔法は使えないだろうなぁ……と思ったところで、おっさんの家についた。

「狭い家だが、君には十分だろう」

 『家』というよりは『小屋』と呼ぶ方が合ってるような外観だ。
 おっさんは自給自足の生活をしているのか、無骨な木材だけで建てられた家の前には畑が作られていた。傍には見覚えのあるゴーレムが鎮座していて、その横を通り抜けて玄関に入る。ゴーレムは畑を荒らす動物避けか? 番犬代わりって可能性もあるか。
 オレがいた場所からここまで一キロほどなのを考えると、肉は森で調達しているんだろう。

「まぁ適当にくつろいでくれ」

 家の中に入るなり、おっさんは顔を洗いに行った。汚れてる自覚はあったらしい。
 家は一階建てで、パッと見た感じには三部屋しかない。玄関を入ってすぐにリビングがあり、窓際には流し台が備えられていた。今、そこでおっさんが顔を洗っている真っ最中だ。
 部屋を区切る壁はあるがドアはなく、リビングからは寝室も浴室も見ることが出来る。一応トイレの前には衝立が立てられていた。
 おっさんの言葉通り、狭い家だが一人暮らしをする分には困らないだろう。
 あと気になった点といえば、人間はよく部屋に写真か肖像画を飾るイメージがあったんだが、おっさんの家には一つも見当たらないことぐらいか。

「さて……何だ、自己紹介でもするか?」

 顔を洗ったおっさんは、片手にコップを持ってソファーに座った。
 腹は満たされているので、オレも話を聞いてやるかとおっさんの前にポテポテと移動する。

「ふっ、私の独り言に付き合ってくれるのか? いや……君が聞いてくれるなら独り言にならずに済むかな?」

 顎に蓄えたグレーのヒゲを撫でながら、おっさんは喋り出す。よく見ると整った顔立ちのようだ。肩まで伸びた髪を切るか、結んでくれたらもっと見栄えするだろうに。

「私の名前は…………レイだ。今年で四二になる。見ての通り、一人で細々と生活しているよ」

 うーん、見覚えがあるような、ないような……。
 レイの顔を眺めていると彼を知っている気がしないでもない。特徴という特徴がないからそう感じるのか。瞳は澄んだ空のような綺麗な碧眼だったが、これも珍しい色ではないしな。

「……そうだな、普段はあまり飲まないんだが、酒を入れるか」

 レイは持っていたコップをテーブルに置き、新たに小さなグラスに琥珀色の液体を注ぐと、またソファーに戻ってオレを見る。そして昔、魔族に犯されたことがあると告白した。
 レイは一口、酒を呷って唇を湿らす。

「あれは私がまだ一〇代だった頃……私は思春期の真っ只中で、つまらない反抗心の塊だった。周りから子供扱いされることに、日々やるかたない憤懣を抱えていた。そんなとき別荘に行くことになったんだが、そこでも周りの大人たちは、口を揃えて勝手に出歩くなと私の行動を制限する。当然の如く、若かった私は反発した」

 酒の入ったグラスを見つめるレイの目は遠い。きっとここではない、過去の光景を思い出しているのだろう。

「私は見張りの目をかいくぐり、敷地の外へと出た。はじめて規律を破ったこと、一人で冒険に出たことに、私の胸は興奮に高鳴った。ただ敷地の外へ一歩出ただけだというのに、そのときの私は達成感に酔いしれ、現実を見れていなかったんだ。大人たちは、ただ私を守りたかっただけだというのに。……その直後、私は一人の魔族に捕まり、一日中犯され続けた。敷地内には魔族避けの魔法がかけられていたが、私は身勝手な感情でそれを無視したんだ。外に出たら魔族に襲われるなんて、子供だましの迷信だとね」

 バカだろう? とレイは自嘲する。
 けれど何故か彼に悲壮感はなかった。どこか懐かしげに目を細めている。
 これってトラウマを告白されてんだよな? オレが、レイを犯したから。

「……私を捕まえた魔族は、この世のものとは思えないほど美しくて……性質《たち》が悪かった。一方的に快楽を押しつけられ、泣くことしか出来ない私に、その魔族は優しく笑いかけるんだ。私は何も悪くないと。大人に認められたいと藻掻いていた私を、最初に認めてくれたのが自分を犯す魔族とは、皮肉にもならない。魔族は終始私に甘い毒を与え続け……次の日になると、呆気なく解放した。解放されて一番に去来したのは、安堵ではなく、悲嘆だった。おかしな話だが、私はあの美しい魔族に捨てられたことが悲しかったんだ。私なんて捕らえ続ける価値もなかったのかと……」

 ふむ、どこかで聞いたことがあるな。被害者が、生存率を上げるために無意識に加害者へ心を寄せてしまう現象だ。レイは、未だにその現象に捕らわれているのか。

「その後は、まぁ……色々と大変だったが、結局その魔族も、選りすぐりの勇者が投入された先の大戦で死んだらしい。もう忘れようと思っていたんだが、君のせいで記憶が蘇ってしまったよ」

 それはすまんな。
 恨みがましそうにするわけでもなく、レイはオレに笑いかける。ヒゲが伸び放題の状態でも整った顔立ちであることが分かるのだから、若い頃はさぞ美少年だったのだろう。若かりし頃のレイを想像すると、彼を襲った魔族が羨ましい。

 勇者が投入された大戦では、たくさんの魔族が死んだ。オレも含めてな。
 魔王なき今、人間にとっては栄華を手にする最大の好機だろう。オレは犯すのが好きだったが、魔王は殺すのが好きだったからな。
 魔族は脳筋が多いのもあって、指揮する者がいなければ、すぐに体制は瓦解する。魔王が倒されたことで…………いや、よそう。今のオレには関係ないことだ。

 オレ、ピンクスライム!

 誰も殺したりしないよ! だから犯させて! ……あれ? 何か前世とほとんど考えてることが一緒の気がする。
 ぷるぷる一人弾んでいるオレをよそに、レイは寝支度をはじめた。
 シャワーを浴びて、寝室へと向かう。
 腹いっぱいじゃなかったら、オレも一緒にベッドに入るんだけどなぁ。

 オレが与えたほどよい疲れと酒の力もあってか、レイはすぐに寝息を立てた。
 こうなってしまうと手持ち無沙汰だ。
 何か暇をつぶせるものはないかと部屋を見渡していたら、使ったまま放置されている食器が目に入った。することもないので、窓際の流し台に登って食器に体を伸ばす。レイは溜め込んでから一気に洗う性格なのか、皿が何枚か重なっていた。
 ゼリー状の体でどこまで出来るか不安だったものの、案外気にせず洗い物は出来た。といっても流水に一部体が流されたけどな! 今頃、排水溝の中では媚薬が出来上がってるかもしれないが、気にしても仕方がない。

 今の自分に何が出来て、何が出来ないのか、確認しておくのに越したことはないだろう。
 ちょうどレイも家事は得意じゃないみたいだし。
 そんな言い訳をしながら、今度はレイの家に来てから気になっていた、部屋の隅の掃除をはじめた。
 だってホコリが溜まってるんだもんよ。
 体の中にゴミを取り込み、家の外へと吐き出す。こうしてみるとゼリー状の体は便利だ。ソファーの下にも潜り込めるのは大きい。

 魔王に引き立てられて貴族になってからは、とんとすることはなくなっていたが、久しぶりにする家事は楽しかった。
 つい調子に乗って風呂掃除まで終わらせてしまうぐらいには。
 いやぁ、部屋が綺麗になって気持ちもスッキリだ。
 ついでにレイの情報を探れないかと思ったが、部屋には家具を除くと驚くほど私物がなかった。家族と暮らしていたような子供の頃の痕跡もなかったので、大人になってからここで一人暮らしをはじめたのかもしれない。

 一息ついたところで、寝室に向かった。
 寝息を立てているレイを見ながら、オレもベッドの傍で休むことにする。
 何かあれば体の上にいるヘビが起こしてくれるだろう。このヘビは何故かオレに対して献身的だからな。

 そして意識を手放した後、ヘビに起こされたのは翌朝のことだった。

 ヘビにゼリー状の体を貫通されて目が覚める。……他に起こし方はなかったのか。
 まぁ起こしてくれたんだからいいかとベッドを見ると、まだレイは眠っていた。

 ……何で起こされたの? オレ。

 てっきりレイが目を覚ましたから、オレも起こされたんだと思ったんだが。
 違うのか? ヘビは玄関の方を向いて動かない。
 誰か来たのだろうかと、寝室からリビングへ移動したときだった。
 来訪者は鍵を持っていたのか、抵抗なく玄関のドアを開け放つ。

「失礼……──魔物っ!?」

 現れた赤毛の青年は、太陽の光を背に身を屈め、腰に携えた剣を一閃させた。
 細身の割に鍛えているのか、青年の素早い動きによってオレの体は上下真っ二つに寸断される。
 青年はレイとは違い、シャツにズボンという軽装ではあるものの身なりが良かった。抜かれた刀剣も、高名な鍛冶士のものだろう。曇り一つない刃には、周囲の景色が映り込んでいる。
 跳ね上がった上半分の体からその景色を眺めながら、オレは下半分の体を青年へと伸ばした。

「ちっ、スライムか!」

 そう! オレ、ピンクスライム!
 なので物理攻撃は無効だ。跳ねた上半分が重力に従い落下し、赤毛の青年へ伸ばした下半分の体と合体する。

「一旦外に……っ!?」

 青年は家の中で魔法は使えないと悟り、外で迎え撃とうとするが、とき既に遅し。
 オレの体は青年に取りついていた。
 こうなってしまえば、いくら剣術に覚えがあっても宝の持ち腐れだ。
 しかし青年は尚も抗おうと、外に向かって転げ出る。地面に転がることで、自分の体からオレを剥がそうとしているのだろう。
 あっという間に身なりのよかった青年の服が土で汚れるが、オレの知ったことではない。

「っ……この……! 離れっ、むぐっ!?」

 ちょっと、うるさいから黙って。
 まだレイも寝てるのに、とゼリー状の体で口を塞ぐ。だが青年はスライムに襲われたときの対処法を心得ているのか、口を塞がれても動じずにオレを飲み込んだ。
 ……うん、普通のスライムだったら、自分の体が食われたことに驚いて身を剥がすんだけどな。
 異能《ユニーク》種でもあるオレは、普通とは違う。そして催淫効果を持つピンクスライムだ。

「な、に……何だこれ……っ……体が、熱い……っ」

 媚薬を作るときですら、ピンクスライムの体を水で薄めるっつーのに、原液で飲むからだよ。
 ピンクスライムを飲み込んだことで催淫効果が過度に現れることになった赤毛の青年は、顔を上気させながら自分の体を抱き締めている。おっ、こいつ肌が褐色だな。レイが色白なのもあって、ブラウンの肌色には新鮮味があった。

「はっぁ……な、に……ぅんんっ」

 もしかしてピンクスライムに遭遇したのははじめてか?
 赤毛の青年は、見た感じ二〇代前半。大人の玩具として広く使われているピンクスライムだが、そのおかげで自然にエンカウントする確率は大分と減っている。
 話には聞いたことがあっても、実際に遭遇したことはなかったのかもしれない。
 それに青年は大人の玩具や媚薬に頼らなくても楽しめるお年頃だ。
 体が火照り、感覚が敏感になることすら未経験かもしれなかった。

「ぁ……ぁあ……お前、なに、をっ……くっ」

 どうやら体の異変の原因がオレであることには気づいているらしい。一番の原因はオマエがオレの一部を飲み込んだからだけどな!
 敏感になった肌は、着ている服の衣擦れでも快感を覚えるのか、青年は問い質しながらも、快感に耐えようと頭を地面に擦りつける。
 オレはといえば……こんな楽しそうな機会を、見逃すはずはなく。
 ヌルリとゼリー状の体を青年の服の中へ潜り込ませた。

「なっ! やめ……っ……くぅ……うご、くなぁぁあっ」

 折角だから、存分に快楽を教えてやるぜ!
 レイは下半身から責めたので、赤毛の青年は上半身を重点的にいじることにする。
 まずは手始めに乳首からだな。おー、おー、既にビンビンじゃねぇか。
 胸板はさほど厚くないものの、褐色の鍛えられた胸にあるツンツンと果実の種のように硬くなった先端に吸いつく。すると青年は嘶《いなな》き、地面を跳ねた。

「はぁぁぁんっ! ぁあ……うそ、だ……こんなのでっ……ふっぅぅ」

 大きく背中を反らせながら青年は戦慄く。
 とうとう耐えきれなくなったのか、彼は自ら下着の中へ両手を差し込み、そして問答無用で竿を扱き出した。

「ふっ、ふっ! くぅぅん、ぁ……あっ! あぁ!」

 赤毛の青年が快楽に酔いしれる間も、オレは彼の乳首を吸い続ける。途中、果実の味が染みついた種を味わうように、コリコリと尖った先端をもてあそんだ。

「あひっ、やめっ……! あっ! あん! もう……こんなっ、だめ、だっ……! はぁん! あっ、あっ、あっ!」

 チュブチュブとゼリー状のオレの体が褐色の胸の上で踊る。
 一方青年も、自身から溢れるカウパーで水音を立てていた。

「こんな……っ………こんなのでっ……ふっ……ぅ、ぅうううっ!」

 青年の腰が震え、腹が満たされるのを感じる。
 彼から放たれた精液は、地面にシミを作った。