005

 赤毛の青年の体から溢れ出る精気がおいしい。
 青年は荒くなった息を整えているが、そこにはまだ快感に捕らわれている様子があった。

「はぁ……ぁ……ん、イッたのに……なんで……っ」

 催淫効果のあるピンクスライムの体を飲み込んだせいだろうな。本来薄めて使うものを原液のまま飲み込んだので、効果が持続しているに違いない。
 オレもまだ腹に余裕があるのもあって付き合ってやることにする。流石に地面に落ちた精液を舐める気にはなれないし。

「あぁ……いやだ、も……離れろっ」

 また褐色の肌の上で動き出したオレを赤毛の青年が掴もうとするが、まるで力が入っていない。
 体格でいえばレイの方ががっしりしているものの、細身ながら最初の一太刀を見るに、彼も体を鍛えてはいるようだが。そうか、刀剣があるのか……。
 オレはあることを思いつき、横たわる青年の胸から腹へと撫でるようにゼリー状の体を滑らした。青年の腹筋は綺麗に割れていて、その筋肉のくぼみ、ヘソの穴に潜りながら下を目指していく。

「なにを、する気だ……!」

 レイもそうだったように、青年も手でオレの進行を阻もうとした。
 無意味だけどな。もう完全に青年の体に取りついてるので、背中からでも回り込める。
 髪色と同じ赤毛の陰毛の上を通り、更に下へ。
 下着から取り出され、外気に晒されている青年の肉棒を横目に通り過ぎたところで、やっと彼はオレの目指すところに気づいた。

「あっ!? う、うそだろ……!?」

 本当です。ヌルリと青年の蕾を通過する。
 するとすぐさま青年はオレを掻き出そうと、自分の後孔に指を突っ込んだ。
 くくっ、無駄な抵抗を。
 オレは気にせず、ゼリー状の体を青年の中へ注入していく。

「はひっ!? ……ぅんん、いやだ、そんな……いっぱい……入れるなぁっ!」

 でも拡張しないと辛いのはオマエだぞ?
 あまり奥までは進入せずに、ゆっくりと中の質量を増やしていくと、徐々に青年の後孔は広がっていった。

「なんだ、これ……っ……うぅ、こいつ、出ない……っ」

 差し込んでいた指を後孔から抜き、青年は力んでオレを排出しようとするが、そんなもの直腸の動きに合わせて体を動かせばどうってことはない。
 そろそろいいかな、と思ったところで、体を玄関先に転がる刀剣へと伸ばした。
 にょっと伸びた体が、刀剣を掴み引き寄せる。青年は背後で行われている動きに全く気づいていない。
 すぐ傍まで刀剣を手繰り寄せると、青年の力みに合わせて、オレは中に注入していた体を外に出した。

「うあっ……はっ……あぁ…………」

 オレを排出することが出来た安堵感で、一気に赤毛の青年が脱力する。
 ふっ、気を抜くのはまだ早いぜ。
 青年が息を吐き、全身の力を抜くタイミングを見計らって……今度は刀剣の柄を弛緩した蕾に挿入した。

「ぁっぐ!? ……な、に……っ」

 催淫効果が強く出ていたのもあってか、オレが拡張していた周辺は、感覚が麻痺しているようで、すんなりと刀剣の柄を飲み込んでいく。
 ヘビに比べると硬過ぎるだろうが、その分ゼリー状の体でのコーティングを厚くした。ピンクスライムに包まれた柄が、青年の直腸を傷つけることはないだろう。

「何を、いれ……うぐっ……う、動かす、なぁっ! くぅぅん!」

 ヌチヌチとオレが刀剣を動かす度に、青年は鍛えた体をしならせた。
 褐色の肌の上を艶めかしく汗が伝っていく。
 くっくっく、どうだ? 自分の刀剣で犯される気分は?

「ひぅんっ! これ、なっ……あぁん! あっ! あっ! 変っ、体がぁぁ!」

 前立腺を集中的に狙ったのがよかったのか、青年は地面に爪を立てて藻掻きはじめる。既に顔も、体も土まみれになっていた。
 性行為で相手がどんどん薄汚れていくのっていいよな。
 そんな感慨に耽りながらも、オレは責めの手を緩めない。
 青年の肉棒がまたいきり立つのを見ながら、刀剣の柄でゴリゴリと彼の前立腺をえぐった。

「はひぃっ!? ひあっ! あっ、あっ……あぅっ! ぁあぅうう!」

 しかし青年は大きく口を開けて喘ぐが、膝を折った姿勢で横たわっているだけなのでイマイチ視覚的に面白くない。
 どうすればいいか考えながら、オレは体を青年の下に潜り込ませ、彼を持ち上げた。

「な、に……? んぁあっ!」

 上半身は地面に這いつくばらせたまま腰を上げさせ、尻を空に向かって突き出す姿勢を取らせる。うむ、これでいいな。
 青年の双丘が太陽の下に晒され、そのくぼみにある赤い蕾からは刀剣が生えているように見えた。柄を青年の中へ抽送する度に、刃が地面に跡を残すのも乙だ。
 想定外に刃が地面に引っかかり、柄の方へ振動を与えるのも素晴らしかった。
 ズンッと響く振動に、青年はツバを飛ばす。

「あひっ、ひんっ……ぅぅ……もう、いやぁっ……はぅぅん! あっ、そこ、は、ダメだっ! だめっ……んぁぁああああ!」

 上手く挿入と振動が前立腺の上で重なったのか、一際大きく青年が顎を上げたときだった。
 玄関から人影が現れる。

「……何をやっている?」

 あ、レイ、おはよう。
 呆然とこちらを見るレイに挨拶するように、オレはゼリー状の体の一部を伸ばした。

「ぐ、グレイク、ニルさまっ……これはっ……ちが、あぁん!」

 何が違うんだ? と思いながら、挿入している柄を一回転させる。
 赤毛の青年はレイにあられもない姿を見られたことに羞恥を覚えたのか、更に精気が濃くなった。
 グポグポと刀剣の柄を抽送されている青年を見て、レイがため息をつく。

「やぁっん! ちが、うん、です! あぁっ、これ、はぁ……!」
「…………それぐらいにしてやってくれないか?」

 えぇー? まぁ、腹は満たされたからいいけど。
 レイの言葉に、刀剣の柄を青年の蕾から抜く。

「ひぅん……ん、く……は……ぁ」

 咥えるものがなくなった下の口は、体内に残ったゼリー状のオレの体を吐き出し、呼吸をするかのようにパクパクと喘いだ。これは悪くない眺めだな。
 満足するオレの隣で、レイは目元を手で覆っている。
 レイにも見てもらった方が、青年は盛り上がると思うよ?

「グレイクニル様……あの……」
「……私は家の中で待ってるから、落ち着いたら来なさい」
「は、はい……」

 そのままレイは家の中へ戻っていった。
 オレも体を弾ませながらついていく。

「腹が空いていたんだろうが、アレはまだ若い。あまり変なクセを覚えさせないでやってくれないか」

 リビングの窓際にある流し台の前に立つと、背中を向けながらレイが諭すように語りかけてきた。……悪いがもう覚えちゃってると思う。
 あれだけ刀剣の柄でアヒアヒ言わされたらなぁ。後ろの気持ちよさは体得してしまってるんじゃないだろうか。

「ところで……部屋が綺麗になってるのは君か?」

 何をしているのかと思ったら、レイは朝食を用意していたらしい。手に二人分の皿を乗せてこちらを振り返った。
 朝食といっても、千切った野菜の上に薄くスライスしたハムを乗せてるだけだが。
 そんなレイに向かって、気づいてくれた? と頷くようにオレは跳ねる。

「溜めていた皿も洗われていたからな。アッサムはそんなことをしない」

 赤毛の青年はアッサムと言うらしい。
 レイはアッサムのためにコップも用意する。どうやらレイは身分にとらわれない人間のようだ。
 レイが『グレイクニル様』と呼ばれていた時点で、彼の正体については察しがついていた。レイの容姿と年齢からいって、間違いはなさそうだよな…………まさかこんなところに王国の王弟がいたとは。

「すみません…………」

 玄関のドアをゆっくり開きながらアッサムが顔を出す。

「あぁ、大丈夫か? とりあえず顔を洗って朝食でも食べなさい」
「何から何まで至らず……あの、そのピンクスライムは?」
「コイツは今腹が満たされているから、心配しなくても何もして来ないよ」

 オレは流し台に移動するアッサムを見ながら、スススッとレイの傍に移動した。
 レイの傍にいれば、アッサムに攻撃されることもないだろう。
 アッサムは顔を洗うと神妙な顔つきで、レイが座るソファーの向かいに置かれていた椅子に腰を下ろし、朝食に手をつける。

 カストラーナ王国は人間側最大の勢力を誇る君主制の国家で、魔王討伐のための勇者パーティーを編成した国でもある。
 実は勇者が派遣される前、長引く魔族と人間との争いに、停戦協定を結ぶべきだという声が、魔族側、人間側の双方から上がっていた。
 そこで停戦に向けて尽力し、人間側の交渉役として名前が挙がっていたのが、カストラーナ王国の王弟であるグレイクニルだ。
 だが彼が停戦協定の会談前に姿を消したことで、この話はなくなった。
 人間側はグレイクニルが消息を絶ったのは魔族の陰謀だと疑い、魔族側は人間の陰謀を疑うという、泥沼の様相を呈したからだ。オレはてっきり人間側の停戦反対派に消されたのだと思っていたんだがな。

「グレイクニル様」
「もうその名前では呼ぶなと言っているだろう」
「しかし……今の王国にはグレイクニル様のお力が必要なのです!」
「くどい。そもそも私を辺境に追いやったのは兄上ではないか。今更、勇者に反旗を翻されたからといって戯れ言を」

 おっ、何か面白いことになってるのか? 二人の会話に、思わず体がぷるんっと弾む。魔王を倒した人間側にとって今が魔族を追い込む好機だというのに、人間側でいざこざが起きているとなれば、魔族側は態勢を整えるチャンスだ。
 魔王という指導者を欠いたことで、勢力が分散することは否めないだろうが。
 だからかオレのテンションが上がるのとは逆行して、レイの表情は曇っていく。

「何度来ても答えは変わらん。私の交渉相手であったスズイロ卿も魔王と共に倒れた今、最早停戦の道は絶たれたのだ」
「そのスズイロ卿についてなのですが、お耳にお入れしたいことがあります」
「何かあったのか?」

 アッサムの言葉を聞いた途端、レイは身を乗り出した。レイにとっては気になる情報らしい。オレも自然と興味を引かれる。

「目撃情報があり、調べたところ……スズイロ卿は生きている可能性があります」
「何っ!?」

 えっ!? オレここにいるのに!!?
 前世での名前が出てきたと思ったら、オレが生きてるという話に耳を疑った。ピンクスライムの体に耳はないけどな!
 信じられない事態にゼリー状の体が大きく跳ねる。
 一瞬レイがこちらに視線を向けるが、すぐにアッサムの話に集中した。

「ご存じの通り、現在魔族は勢力を分散させ、方々に散っております。中でも王が背後を取られないか懸念を抱いているシド卿は、スズイロ卿の第一子として有名ですが、彼の魔族領にて、スズイロ卿の姿が確認されました」
「信じられん、なんということだ…………」

 オレの心境もレイと全く同じだった。

 シドのヤツ! さてはオレの死体を動かして遊んでるな!?

 シドは死霊使いとして有名だったヴァンパイア族の女との間に生まれた子供だ。当然のように死霊使いとしての技量を母親から受け継いでいた。
 死体が粉々にでもなっていない限り、彼ら死霊使いは死体を修復し、操ることが出来る。
 きっとシドは勇者パーティーに破れたオレの死体を回収して、死霊魔法を施したに違いない。でなければオレというスズイロの意識はここにあるのに、体が別行動している説明がつかなかった。

「……シド卿は確か母親がヴァンパイア族だったな。ヴァンパイア族の中には、死体を自由に動かせる者もいるという。彼が父親であるスズイロ卿の死体を動かしていることも考えられるのではないか?」
「我々が確認している死霊使いの能力は、見るからに死体と分かるほど体が崩れた死体を操るものです。目撃されたスズイロ卿は、傷一つなく生前の美しさを保っていたとか。勇者パーティーに倒された彼の死体が、無傷であるはずがありません」

 ……あれ? 死霊使いの修復能力について人間側は知らないのか?
 考えてみれば戦場で死体を動かすときは、ゾンビ兵やスケルトン兵として戦線に出すので、修復する手間はかけない。
 人間側が死霊魔法を目の当たりにするのは戦場でだけなので、死体の修復能力を知らなくても無理はなかった。

「ううむ…………」
「どうか今一度、交渉の席について頂けないでしょうか」
「交渉は相手あっての話だろう。シド卿にその気がないのなら、私が出向いたところで無意味だ」
「それがそのシド卿の方からグレイクニル様のお名前が出たのです。グレイクニル様となら話し合いの席についてもよいと……どうか、お願い致します!」

 シドがねぇ……? オレが言うのもなんだが、ファザコンのアイツがオレを殺した王国の人間と大人しく話をすることはないと思うぞ。
 第一、グレイクニルが生きていたことは、オレすら知らなかったことだ。シドも死んでいると思って名前を口にした可能性が大きい。十中八九、レイが赴いたところで会談はなされないだろう。
 しかしアッサムの懇願を見る限り、カストラーナ王は、その一縷の望みに縋りたいようだった。それほどまでに情勢がひっ迫しているのか……?
 シドが管理している魔族領はカストラーナ王国と隣接しているため、魔族対人間の激戦区でもある。反旗を翻した勇者に退路を断たれ、その後ろをシドに突かれるなんてことはカストラーナ王も避けたいだろうが。

「……スズイロ卿が生きている可能性があるなら……その可能性に賭けるか」

 いや、だから死んでるって。
 思わず突っ込むが、オレの言葉がレイに届くことはなかった。