005
あれから気がついたフェリの着替えを用意してもらって、恥ずかしさに若干パニくる彼を落ち着かせてから互いに一息入れることにした。お茶をしながら、ふと気になった魔道具の開発について聞いてみると──。
「魔道具は体内魔素を流して使うのが基本なんだけど、僕は日頃検出する魔素量のデータから、何か開発に役立てられないか考えたんだ。その内の一つが流す魔素のパターンを登録することによって、登録した人にしか解錠出来ない鍵が作れないかっていうものなんだけど」
結果完成した鍵はこの部屋にも取付けられているらしい。俺が本当に人族だったら部屋から出ることは叶わなかっただろう。
他にもフェリは色々開発してるようで、開発の話になると喜々として説明してくれる姿に、研究者なんだなぁと思う。
うん、フェリが自分を卑下する理由が全く見当たらないんですが。生まれた種族の問題か?
ひとしきり自分の開発した魔道具について説明し終わると、時間が良い頃合いだったのもあって、フェリは新しく用意されたという控え室に帰った。
何でも俺がいつ呼び付けても良いよう、隣の部屋を宛がわれたんだとか。
控え室と呼ぶには立派過ぎる部屋に、フェリも戸惑ったと言っていた。
多分俺がこの部屋を出なくても不便を感じることがないように手配されたんだろうけど、フェリの今までの開発を鑑みるに功績としてその部屋を使うのは相応しいと思う。
至れり尽くせりだな、ビクター。
すっかり夜も更けて部屋の明かりが灯されている。
アルはいつぐらいに帰って来るんだろう。魔族でも定時とかあるのかな。魔王様だからあったとしても関係ないか。
魔族の生活について考えを巡らせていたら、部屋の扉が大きく開かれた。
「戻ったぞ!」
確認するまでもなく、アルである。
バーンッと効果音付きで帰ってきたアルは、そのままの勢いで俺の前までやって来た。
主人が難なく入室出来るよう扉を開けようとしていたメイドさんは、驚きに一瞬固まった後、何事もなかったかのように扉を閉めた。実に教育が行き届いている。
「おかえり」
俺は立ち上がってアルを迎えると朝の続きで挨拶のキスを贈った。
アルがその唇に吸い付いてくるのでしたいようにさせる。約束だったしな。
「んっ、クルト……クルト……」
口を薄く開くと舌が差し込まれ、口内を味わうかのように蹂躙される。
俺も気持ち良いんだけど、唾液でベトベトになるのが考えものだよな、これ。
口の端から溢れた唾液が顎を伝い落ちていく。
「……ちゅ……アル、零れてる」
「んー」
流れる唾液をどうにかしたくて指摘すると、アルは唇を合わせたまま、舌だけでそれを器用に舐め取った。どれだけ舌長いんだ。
ぴちゃ……と音を鳴らして唾液が糸を引く。
「アル」
「ん……なんだ」
再度呼びかけると、心地良さそうに閉じられていた目が片方だけ開かれた。邪魔するなと言いたげである。
「首、ダルいから位置変えて」
痛みは感じなくとも、こういう気だるさは残るのだから不思議だ。
俺の訴えを聞くと、アルはおもむろに俺の腰に腕を回して持ち上げた。
「うっわ」
唐突な浮遊感に思わずアルにしがみつく。
60キロある俺の体重をものともせず、アルは俺を持ち上げたままベッドまで移動するとそこに腰を下ろした。
俺はベッドに膝立ちになり、今度はアルを見下ろす形になる。
「これで良いか」
「……うん、まぁ」
「ん」
続きを強請るように目を閉じるアルに、苦笑が漏れる。
晩ご飯とかどうするんだろう。もう食べて来たんだろうか。当の本人がこれだから別に気にしなくても良いか。
俺は形の良いアルの唇にキスを落として、もうしばらく付き合うことにした。
◆◆◆◆◆◆
結局まだ晩ご飯は食べてなかったようで、朝食と同じように部屋にある机に料理が並べられた。
コース料理のように一つ一つ持って来られるのではなく、色んな料理をのせた皿が机いっぱいに並べられる。
聞けば皿に保温出来る魔法式が描かれていて、料理が冷めることはないらしい。これも魔道具の一つなんだとか。
七面鳥の丸焼きのようなものを豪快に切り分けながら食事を進めるアルを、彼の膝の上から俺は眺めている。どうしてこうなった。
小さい子供が親の膝に座らされるように、俺も後ろからアルに腕を回される形で座らされている。
重い重くないの話以前に恥ずかしいわ!
どう考えても視界の暴力だろ、これ。
何が悲しくて大の大人が成人男性の膝に座らなきゃいけないんだ。落ち着かないったらありゃしない。
「動くな、食べにくいだろう」
「だからさっきから降りるって言ってるだろ!」
こんなやり取りをもう何回も繰り返している。しかしアルは一向に俺を降ろそうとしない。
すり抜けたら良い話なんだけど、あんまりやりたくないんだよね。
「自分では降りないんだな」
「……分かってて聞くなよ」
俺よりアルの意思を尊重してやってるんだろ。何でアルが俺を膝に乗せたいのかは全く分からないけど。
頭上でアルが笑ってる気配がする。ご機嫌が良さそうで何より。
並べられている料理に視線を戻せば、粗方食べ終わったのか、空になった皿をメイドさんが回収していた。
それを見てフリーシアンの話が頭を過ぎる。
「あー、アル、少し時間あるか?」
「この後に会議が入っているが、それまでならあるぞ」
「あれ? 仕事まだ終わってないの?」
「最近、人族の国がきな臭くてな……閣僚は皆、城に詰めているんだ」
「え!? それって凄い忙しいんじゃ……」
「何、別に今すぐ戦争になるわけではない。ただその分、会議の回数が増えていてな」
うん、忙しいんですね、分かります。
出来るだけ手短に……済ませられたらいいな。
「俺の教育係の話なんだけど」
「何だ、気に入らないことでもあったのか」
「フェリ……フェリクスって言うんだけどさ、フェリのことはむしろ気に入ったよ! 俺には勿体無いぐらいだよ!」
フルネームを覚えてないのは申し訳ないが。
しかし仕事を置いて来てくれてるみたいだけど、あんな天才を俺につけて大丈夫なのか? 魔道具の開発止まっちゃうんじゃ? ……ビクターに抜かりはないか。
「ただフリーシアンの話を聞いて」
「あぁ、あの悪しき風習を聞いたのか」
「悪いって認識なんだ?」
「当然だろう。誰が好き好んで同族の肉を食すか」
あれ……? 同族? いや、魔族同士だから同族で合ってるんだけど、フェリが言ってたニュアンスと違う。
確かフェリは魔族同士でも種族の違いは大きいって言ってたよな?
「それって魔族全般の認識? それともアルの個人的な意見?」
「魔族全般……と言いたいところだが、7割といったところか。種族によっては好む者がいることも事実だ」
「特定の種族がフリーシアンを食用にしてるってこと?」
「あと古参の奴らがな。これが一番厄介なんだが」
アルはそこで言葉を切ると、ひょいと俺を持ち上げて斜め隣の椅子に座らせた。朝と同じ位置だ。
なんだろう、ヌイグルミになった気分。
「力のある貴族がいるために、余も手を焼いている。とくに今は人族のこともあって、下手に処分出来ぬからな。第一ただでさえ魔族は出生率が低いのだから、食用に回す分があるなら兵に回せと言いたいっ」
前から思ってたけど、アルって見た目や行動は本当魔王様だけど、考え方とか人と大して変わらないよね。
「出生率低いんだ……」
「人族に比べて長命なのと、後はやはりこの魔素の多い環境が影響していると考えられている。いくら個体の力が強くても、人海戦術で攻められれば、利は人族の方にある。だというのに、あの老害どもときたら……」
自然に寄った眉根を、アルは指で揉み解す。苦労してるんだね……ホロリ。
「更に面倒なのは、フリーシアン自体がそれをよしとしているところだな」
「どういうこと?」
「あれらは、そうすることで自分たちの立場が守れると思っている。特に貴族に名を連ねる者ほどそれが顕著だ。代々先祖の教えに洗脳されてるというのもあるがな」
頭が痛い。
俺もアルに倣って眉間を指で揉んだ。
「ということは? 魔族の大半が共食いをよしとしていないにも関わらず? 一部の悪食と貴族のフリーシアンの保身のためだけに、フェリはいいように使われた挙句に死ねと言われてるのか?」
ふっざけんな。
「貴様の教育係りについたフェリクスの家はその筆頭だ。本人はどう言っていた? 程よく情報を制限されて家に洗脳されてるはずだが」
「……だから微妙にアルと話が食い違ってるのか。フェリは死にたくないって泣いてたよ。その上で自分の考え方が異常なんだとも言ってた」
あれは家に偏った知識を植え付けられていたのか。
業が深いにもほどがあるだろう。
「ふむ、そこまで貴様に気を許してるのか。邪神であることは言っていないな?」
「言ってないよ。言ってないのに、フェリは俺を認めてくれたんだ……。普通さ、会って間もない権力者の男妾の存在を認めるか? 俺もどうしてフェリがそこまで気を許してくれたのかは分からないけど」
「待て、それは信仰レベルが上がったということか?」
「そう、アルのときと同じ。どうやら邪神に関係なく、俺の存在を認めてもらったら信仰レベルは上がるみたいだ」
「ふむ……考えうるのは、フェリクスが貴様に取り入ろうとしているか、余程のお人好しかだな。知らず存在を認めて、ステータスが上がったのなら後者か」
「うん、俺も同意見」
あの人の良さそうな柔らかい雰囲気や、やり取りが全て演技だというなら、俺は喜んで騙されよう。信仰レベルが上がってる時点で、その可能性は低いんだけどね。
「俺はそんなフェリを生かしたい」
「ビクターが用意したのなら、優秀なのだろうしな。余も異論はない。ビクターといえば、フリーシアンの養殖をしている貴族の話は聞いたか?」
「いるらしいね。ビクターと関係ある貴族なの?」
「その貴族がビクターだ」
「はぁあ!?」
ガンッと気付けば拳を机に振り落としていた。痛覚があったら今頃痛さに悶えていただろう。
「ふっ、そういきり立つな。養殖は建前で、奴は食用に回されそうなフリーシアンを自領で保護してるんだ。養殖に使うと言ってな」
「あぁ……そういうこと……」
一瞬見損ないかけてゴメン、ビクター。
「まぁ育った女は欲しがる貴族に卸しているから、養殖も間違いではないがな」
「お、おう……女性は食べられることないんだよな?」
「生かしておいた方が得だからな。奴も卸す相手は選んでいるさ。だがそれにも限界がある。流石にフェリクスの家にまでは手が回せず、貴様につけることにしたんだろう。しかしそれもフェリクスに実力があったからだ。なければ他の者がついていただろう」
何かあるとは思ってたけど、そういうことだったのか。そしてブレない実力主義。
根本的な解決にはなってないけど、フェリについては心配いらなさそうだ。
俺の決意なんて元から必要なかったよ……。
「それにしてもクルトは、魔族の問題だというのに怒るのだな」
「人族の『神』なのにって?前から言ってるけど、俺にこだわりはないよ。それにほら、俺『邪神』だし」
そう言って笑うと、アルはどこか眩しそうに俺を見た。
「正直、魔族と人族で何が違うのか分からなくなってきてるんだよね。俺が人族を知らないからかもしれないけど……アルの考え方や、フェリと話したりしてたらさ、何が違うんだろうって」
魔族の外見や力を個性と言うには、無理があるかもしれない。
けれどそれが魔族と人族の間に越えられない壁を作るほどのものにも思えなかった。
それとも、もっとこの世界を知れば、二つの種族を分かつ明確な答えが出るのだろうか。
「いつか分かるときが来るのかな。そうだったとしても、俺がアルを好きなことに変わりはないよ」
「そうか」
本当、この笑顔を見せられて、誰が嫌いになれるというんだろう。
魔族と人族の違いが分からないと言った俺に、アルは嫌な顔一つしない。
これが魔族を統べる者ならば、人族を統べる者はどうなのだろうと少し興味が沸いた。
「陛下、ビクター様が参られてます」
「わざわざ呼びに来たか。すぐに行くと伝えろ」
「かしこまりました」
メイドさんが来訪を告げると、アルが顔を顰める。
「では余は会議に行って来る。次に戻るのは遅いだろうから、適当に休んでいろ。必要ないかもしれんがな」
「寝れないことはないし、先に寝てるよ。行ってらっしゃい」
「うむ…………それだけか?」
「ん?」
行くと言った割りに、アルはその場を動こうとしない。
何かあったっけ?
「……行ってらっしゃいのキスは」
「あぁ」
そんなものもしましたね。
「魔族にはそんな習慣ないんでしょ?」
「貴様に合わせてやる」
いや、今朝も気分でやっただけであって、俺にもそんな習慣なかったからね?
おかえりなさいのキスも、朝に言ってたからしただけだからね?
「早くしろ」
俺が気分屋なの忘れてるな、こいつ。
しかし始めたのは俺だし、高圧的に言いながらも若干眉が下がってるアルを邪険にするのも可哀想なので、俺はアルが羽織っているマントを引っ張った。
「こういう時は、相手に合わせて自分も顔を寄せるものだよ」
「む……分かった」
ちゅっと音を鳴らしてアルの唇を吸うと、何故か更にアルの眉尻が下がる。
「……行きたくない」
「早く行け!!!」
大体キスは帰った時に散々しただろ!
これ以上ビクターを待たせるのは悪いので、ぐいぐいアルの背中を押して歩く。
「帰ったら……」
「はいはい、続きね」
良くないクセを付けてしまっただろうか。
◆◆◆◆◆◆
「クルト様、おはようございます。……少し顔色が優れないみたいだけど大丈夫?」
「フェリ、おはよう。ちょっと疲れてるだけだから、気にしないで」
「疲れてるってまだ朝……あっ! うん、そ、そっか!」
何か激しく誤解されてる気がする。
ちなみに疲れてるのは、明け方近くに帰ってきたアルに、しつこくキスを強請られて気疲れしたからだ。どうやら会議が思うように進まなかったらしい。
顔を赤くしながら、目を逸らすフェリが遠くに感じる。
「フェリって、やることやってるクセに純情だよね」
「や、やることって……」
「ううん、良いんだ。フェリはそのままでいて」
間違っても2時間もキスを強請るようにはならないで。今日も帰ったらするのかなぁ……いい加減飽きてくれないだろうか。
俺も何か癒しが欲し……はっ!
「フェリ、ミルク飲みたい」
「えっ!? クルト様疲れてるんじゃ……」
「何を言っているんだ。疲れているからこそ飲みたいんじゃないか」
「そ、そういうものかな? でもあまり魔素を取り過ぎるのは良くないんじゃない?」
「魔素酔い? 平気平気」
むしろ魔素含有量が多いものほど、甘くおいしく感じるんじゃないかと俺は思っている。
今日の朝食で味見に飲ませて貰った感じだと、フリーシアンの女性のミルクより男性のミルクの方が魔素は多いんじゃないだろうか。
「フェリは自分のミルクの魔素含有量を計ったことはあるの?」
「……内緒だよ?」
あるのか。
「女性のと比べて多かった?」
「うん、平均の2倍ぐらいかな。でもどうして?」
「今朝出されたミルク飲んだけど、フェリの方がおいしかったからさ」
「クルト様、間違っても他の人の前では言わないでね」
フェリは真剣な口調で俺を窘めるが、その顔はどことなく嬉しそうである。しかし次の俺の発言を聞いて血の気を引かせた。
「残念、魔王様に言っちゃった」
味見のくだりでね。何やってんだと白い目で見られましたよ。魔王様に白い目で見られる俺って何? ……邪神様ですけど、何か?
俺が自問自答している間にも、どんどんフェリが青くなっていく。
「ど、どどどうし」
「大丈夫だから落ち着いて。フェリは俺の被害者だから。魔王様もそうとらえてたから」
俺の話を聞いたアルの中で、すっかりフェリは可哀想なフリーシアンの青年という位置付けである。人が良いという話をした後だったし。
「で、でも……」
「現に今何も言われてないだろ?だから安心して俺にミルクを飲ませなさい」
「うぅ……だけど僕としてはクルト様の体も心配なんだけど」
「流石に俺もいくらおいしいからって体を壊してまで飲もうとは思わないよ」
「そう……?」
特異体質みたいなんだと更に言い募れば、渋々だけどフェリは納得してくれた。
フェリにしてみれば、人族が魔素に強いのが不思議なんだろう。いつか本当の種族を話せれば良いな。
渋っていた割にはいそいそとフェリはボタンを外していく。俺にミルクを飲まれるのは満更ではないらしい。
フェリはシャツの前を開くと、乳首を俺の眼前にずいっと差し出した。むしろノリノリか。
「そういえば搾乳機ってあるの?」
「あるよ。でも手搾りの方が味が良いって聞いてる」
「そっか。じゃあフェリの胸も頑張って揉まないとね?」
「あ……」
早速片方の乳首を口に含む。
もう片方はミルクが零れてしまわないよう、乳頭を指で押さえ込んだ。
「んんっ」
「感じちゃう?」
「う、ん……昨日から、敏感になってて……」
「痛くはない?」
「大丈夫……あんっ、それ、だめぇっ」
痛みはないと聞いて、コリコリと舌先と指で両方の乳頭を転がす。
はいはい、フェリの『ダメ』はスルーしますよー。
尖端が硬くなってきたのを確認したら、次は脇の方から胸の中心に向けてフェリの胸を揉みしだいた。
「はぁんっ……ぁ……ふ……」
「気持ち良い?」
「うん……揉まれると、んっ……血流が、良くなるみたいで……気持ち良いよ」
力が抜けて来てるのか、ほにゃっとフェリが笑む。
愛らしい。
よし、今回も存分に可愛がってあげよう。
「またミルク出そうになったら言ってくれ」
「分かった……あっ……んっ、んっ」
唇で食むように、乳輪を咥えていく。
それだけでも睫を震わせるフェリに、やっぱりフリーシアンにとって胸は性感帯なのかと思う。
乳首はまだしも、胸全体で普通ここまで感じないもんな。
「はむ」
「……っ……ぁっ……ねぇ、クルト様……」
「うん?」
「もっと……乳首、吸って欲しい」
「……分かった」
胸のマッサージに専念してたら、フェリが物足りなくなったらしい。
折角のおねだりだし、少しキツめに吸ってあげることにする。
「ちゅっ……ちゅぅ」
「ふぁっ! あっ、あっ……」
今まで吸ってなかった分を取り戻すように、ちゅっちゅっと何度も吸い上げる。
指で押さえ込んでいる方も、抓んで持ち上げるようにした。
「ひあっ……あっ! やっ……だめ……クルトさま……まって……!」
待ちません。
「ちゅうっ」
「んんっ……はっ……あっ、あんっ……だめ……きもち、いいのぉ」
乳首を吸われると一層感じるのか、フェリの声が甲高くなる。
更に口をすぼめて吸い付くとフェリが喉を反らした。
「あぁ! やっ……やっ、まって、だめっ……あっ、みるく……出るっ……ぅんん」
反射的に逃げようとするフェリの背中に腕を回して逃亡を防ぐ。
いやいやと首を振るフェリを視界の隅におさめながら舌で乳頭を転がしては吸った。
存在感の増した乳首を甘噛みすると、フェリが|嘶《いなな》く。
「ひんっ……! あっ……、出るっ……ミルクでるぅううっ」
うまうま。
口に広がる甘みに喉をこくりと鳴らす。
ビクビクと体を痙攣させながらフェリはミルクを出すけど…これはイッてるんだろうか?
射精はしてないみたいだから、イッてたとしたら空イキの状態?
どうなんだろう?と思いながら、ミルクが止まるまで吸い続けた。
「あん! ……はっ……もう……だめぇ……、気持ち良過ぎて……おかしく、なる……っ」
「いいよ、好きなだけイッて」
「やっ……そんな……、はぅぅっ」
最後までミルクを出し切ると、フェリはその場に力なくへたり込んだ。
放心気味のフェリを尻目に唇に付いたミルクを舐め取る。
きっと体に入った端から吸収されることなく分解されてるんだろうけど、飲食が楽しめるのは良いことだ。
唾液とかは出るけど、排泄の必要はない。我ながらつくづく変な作りの体である。
フェリは荒い息遣いで自分の胸に手を当ててはいるものの、昨日の様に気を失ったりはしていない。
「あ、そうそう、フェリ。大事なこと言い忘れてた」
「なに……?」
まだボーとしている表情のまま、フェリは顔だけを俺に向ける。
今のタイミングで言うのもどうかと思うけど、早い内に伝えておいた方が良いだろう。
「フェリが食べられることは無くなったから、安心して?」
「え……」
「昨日、魔王様と話したんだけどさ──」
目をパチパチと瞬かせるフェリに、昨晩アルと話した内容を伝える。
フェリはこれから俺につくのだし、何よりビクターの人選だからと話を伝える許可は貰ってあった。暗に俺の教育が短期間で終わるはずがないと言われているけど、それに関しては否を言うまい。正直自信ありません。
魔族の大半は食用に否定的なこと、フェリが教えられてきた知識が全て正しいとは限らないことを、ビクターのことも含めて話した。
終始静かに話を聞き終えたフェリは、そのまま仰向けに倒れ込むと目を両手で覆う。
俺はそんなフェリに近づいてその微かに震える頭を優しく撫でた。
「無理しなくて良いよ」
フェリにとっては家を否定されたことになる。良くも悪くも自分が育ってきた家を、だ。
簡単に受け入れられることじゃないだろう。
「……ごめん、信じ、られなくて……」
「良いんだよ、俺の言葉を信じられなくても。これからフェリが自分の目で確かめていけば良いことだから」
きっとフェリにはそれが出来る。
死にたくないと、生きたいと願えるフェリならば。
「俺が出来るのは、こうして傍にいることだけだ。困ったことがあれば宰相様に相談するといい。きっと助けてくれる」
「クルト様……僕は、あなたに何が返せるだろう?」
「うん? 俺は何もしてないよ」
フリーシアンを保護しているのはビクターだし。それをどうにか出来ないか頭を悩ませているのはアルだ。
改めると、本当に俺何もしてないな。
俺の言い分を聞いて、フェリが体を起こす。
温かみを帯びたオレンジ色の瞳と視線が合わせられた。
「クルト様がいてくれるから、僕はこうしていられるんだ。僕のミルクを飲んでもらえるだけでもとても有難いのに……」
「フェリが俺の教育係に選ばれたのは、フェリが優秀だったからで、俺がいなかったとしても宰相様が何かしら動いてくれてたと思うけどな」
それでも限界があるとアルは言ってたけど。
「感謝を返すなら魔王様と宰相様にすればいい。俺はミルクを飲ませてもらえたら十分だから」
お腹は膨れなくても、心が満たされる。
ミルク飲んでるときのフェリはエロいし。
「もちろん陛下とビクター様には感謝してもしきれない。けど……」
フェリの手が俺の頬に触れる。
「僕の心を救ってくれたのはクルト様だから。クルト様が僕の話を聞いて、陛下に話してくれたから……僕がクルト様を利用してるとは思わないの?」
「利用されてても良いけど?」
それでフェリが幸せになれるなら、好きなだけ利用すれば良い。ていうか、しろ。
「フェリには幸せになる権利がある。俺がその後押しをすることが出来るなら、喜ばしい限りだ……っと」
唐突に乳白色の髪に視界を覆われる。
フェリが俺を抱き締めていた。
「どうして……そこまで、してくれるの?」
先に俺を認めてくれたのはフェリなんだけどな。それをここで言うわけにもいかない。
「んー、俺がフェリを好きだからかな?」
そう言うと、俺を抱くフェリの力が強まった。
温かい体温とほんのり甘く香るフェリの匂いに包まれる。
この世界は、俺が思ってる以上に、俺に優しい。