006

 フェリに魔族の社会に定時はあるのかと聞いたら、一応あると答えられた。ただ暗黙の了解みたいなもので、規則で決まっているわけではないらしい。日が暮れるのが目安とのこと。大雑把過ぎないか?
 しかしそれが定時ということなので、フェリにも日が暮れたら部屋に帰ってもらうことにした。
 何故かフェリは不満そうだったけど……早く帰れるに越したことはなくね? 隣の部屋だけどさ。暇になったら必ずフェリに声をかけることを約束して、ようやく矛を収めてくれた。
 熱心なのは良いことだけど、分厚い歴史書は正直勘弁して欲しいです。
 その内テストとか作りそうで怖い。アルのフルネームすら覚えてないんですけど!

「クルト様」

 珍しくメイドさんから声を掛けられる。誰か来たらしい。
 加護のおかげで誰かは分かるんだけどね。

「入ってもらって」
「かしこまりました」

 日が暮れてはいるものの窓から見える遠くの空はまだ紅い。
 アルもまだ帰ってないし、俺に何の用だろう?

「失礼する」

 今日も頭の天辺から足の爪先まで、ビクターに隙はない。
 後ろで束ねられた髪が乱れることなんてあるんだろうか。

「本日陛下は戻られない旨の伝言と、話が出来ればと思ってね。座っても?」
「どうぞ」

 ビクターが腰を下ろすのに合わせて音もなく飲み物が置かれる。メイドさんのレベルが高過ぎると思うのは俺だけだろうか。
 気付いたら俺の方にも焼き菓子が添えられていた。いつの間に。

「食事は取らないと聞いているが?」
「食べられないわけでもないから、つまむ程度に用意してもらってるんだ。それでアルは今日戻らないって?」
「閣僚のまとまりが悪くてね」

 また会議が長引いてるんだろうか?機嫌悪くなってないと良いなぁ。

「どうやら人族が陛下の傍にいるのが気に食わないらしい」
「思いっきり俺のせいじゃねぇか!」

 だからアルはあんなにしつこかったのか。

「それは想定の範囲内だ。さしたる問題ではないよ」

 しかしわざわざ俺に言うということは、愚痴りたい程度には面倒なことになっているんだろう。
 俺が姿を変えられたら起きなかった問題だしなぁ。

「陛下もそのことについては一蹴されている。問題なのは、それを理由にして会議をさせない輩がいるということだよ。フリーシアンの一派とかね」
「あー……」
「表立って敵対していない分、煩わしくてね。フェリクスの異動が尾を引いているようだ」

 フェリが俺の教育係に任命されたのが、気に食わないと。

「彼は優秀過ぎるあまり現場でも妬まれていたようだが、動かしたら動かしたでこれだからね」
「あ、やっぱり妬まれてたんだ」

 片手間で研究員をやってると思っていた人物が、次々と使える魔道具の開発に成功していたら、それは妬みの対象になるだろう。
 “それなりの扱い”には嫉妬も多分に含まれていたようだ。そしてきっとフェリはそのことに気付いていない。

「これは私の責任だがね、君はフェリクスに対して同情的だと陛下から伺った。そういう動きがあることを知っておいても良いだろう。気分の良い話ではないだろうが」
「もうフリーシアンの貴族に対しては悪印象しかないんだけど」

 俺が半眼で応えるとビクターは片眉だけを器用に上げた。

「君はどうしてそこまでフェリクスに入れ込む? あれは見目が良いから惚れたのか?」
「どうしてと聞かれたら、人として好きだからとしか言いようがないかなぁ。俺、ビクターのことも好きだよ?」
「何故?」

 問い詰めてくるビクターに苦笑が漏れる。

「理詰めで答えられることじゃない」
「そういうものかね」
「ビクターは人が好きな理由を理詰めで答えられるのか?」
「答えられる」
「じゃあ俺の感覚的な話は理解し辛いか」

 思考回路の違いか、こればっかりは仕方ないな。

「否定しないのかね」
「何を?」
「一般的には他者を好む理由を説明出来ない者の方が多い。私のような者は少数派だ。君は私に『理詰めで答えられるのはおかしい』と諭さないのか」
「俺が持ってない答えをビクターが持ってるだけの話だろ?」
「……私が間違っているとは思わないのかね」
「俺が正しいのかも分からないのに? 社会では大多数の意見が正解になるんだろうけど、今は俺とビクターの話だろ?」

 そこにあるのは両者の考え方の違いだけだ。一般論を持ち出すことは簡単だけど、俺は別に自分が正しいと思いたいわけでも、主張したいわけでもない。

「なるほど、君はそう考えるのだね」

 ビクターは頷くと用意されていた飲み物で喉を潤した。
 琥珀色の液体は紅茶だろうか。

「ビクターは俺の考えを否定しないのか?」
「否定することに、意義を見出だせないからね。フェリクスのミルクの味はどうだった?」
「……いきなり突っ込んできたな。おいしかったよ」
「私も男性のミルクを試飲したことはあるが、飲めたものではなかったぞ」

 飲んだことあるのかよ。どういう状況だったのかは聞かないでおこう。
 どうでもいいけど、男性のミルクって聞くとアレを連想するよね。

「俺はどうやら魔素が多いものほど、おいしく感じるみたいなんだ」
「ほう」
「だから一度、魔素含有量の多い不味い薬草があれば食べてみたいんだけど」
「手配しておこう。摂取することによって何か変わるのかね?」
「今のところ何もないかな。ただおいしく感じるってだけで」
「そうか。機会があれば、私のところのミルクも飲んでやってくれ。あれらは他者に自分のミルクを飲ませることを至上の喜びと感じるようだからね。いっそ毎食ごとに用意させるか……」
「男はミルク出すの大変そうだから、無理させないであげて」
「言えば、本人たちはこぞって献上するのではないかな。何せ君以外に飲んでくれる者がいないからね」
「そんなに不味く感じるものなんだ……」

 おやつに貰ってる焼き菓子とかを食べる分には、味覚は他の人と変わらないみたいなんだけど。
 人の体液だからか?
 邪神体の不思議。

「ビクターは何でフリーシアンの男を保護してるんだ?」

 ただの慈善事業ではないだろう。ビクターは合理性や何かしらの理由がなければ動かない気がする。

「陛下が申されたのかね? 保護というのは些か違うな。私は彼らに仕事を斡旋しているに過ぎない」
「でも食用に回されないようにしてるんだろ?」
「折角覚えた仕事を放り出されては困るからね。人目に出すと煩い輩がいるから、それを黙らすために養殖と銘打っている。おかげで食用を否定してる者からも当のフリーシアンからも嫌われてるわけだが」
「……割に合ってなくね?」

 もういっそ大々的に保護していると言った方が良い気がする。何故そこまでビクターが悪者にならなきゃいけないんだ?

「代わりに食用を支持している者は私の元に集まって来ているよ。それに仕事面では問題なくとも、生活面では陛下と対立していた方が何かと計りやすくてね」

 流石宰相様、腹黒い。

「集まってきた連中を一掃するとか?」
「ゴミはね。ただ悪い者ばかりではないから、見極めが必要だ。今は時期も悪いし、時間ばかりが過ぎてしまっているが」
「そっか……」

 アルも似たようなこと言ってたし、今すぐどうこう出来る問題じゃないのは分かるけど、もどかしい。

「ちなみにどんな仕事を斡旋してるんだ?」
「主に机仕事だね。フェリクスを見ても分かるが、魔族に珍しくフリーシアンは気性が穏やかだ。また他者と争うのを好まないし、一か所でじっとしているのも厭わないから、内政を預かる者として事務仕事に重宝しているよ」
「役立つ場所があるんだな」

 なのにどうして食用にこだわるのか。俺の疑問にビクターが笑いながら答えた。実に心が冷える笑みで。

「フリーシアンの女性にとっては、男性に自分の意図しないところで役立たれるのは困るのだよ。女性優位が揺らぐからね。そして生け贄を捧げることで、自分たちは恭順だと示しているんだ」
「男は道具でしかないのか……」
「そうすることでフリーシアンを守れると本気で思っているのだから性質が悪い」

 戦う力の弱い自分たちを守るためとはいえ、情状酌量の余地はないように思える。
 中にいると外のことが見えなくなるんだろうか。
 フリーシアンにも言い分はあるんだろうけどなぁ。少なくともアルとビクターはそれをよしとしていない。そのことに出来るなら早く気付いてもらいたいものだ。

「後ろにいる古参の貴族を早く潰してしまいたいのだがね」
「あぁ、戦争が控えてるから無理なんだっけ?頭だけすげ替えられないの?」
「魔族は種族の絆が殊更強いのだ。息のかかった者を用意出来ない今、すげ替えたとしても結果は同じだろうね」

 ぐぬぬ。思うように行かないもんだ。
 俺はバリバリとクッキーを噛み締めた。硬めに焼かれたクッキーは気分転換に食べるのにちょうど良い。一緒に用意されていた琥珀色の液体でそれを流す。うん、紅茶だな、これ。
 ふと視線を窓にやると、完全に闇が下りていた。

「ビクターは時間良いの?」

 宰相という役職に俺と喋ってる時間がある印象はない。

「ここにいることは伝えてあるから、至急の用件があれば誰か来るだろう」

 それは今は部下の人に仕事を任せてるということでしょうか。
 来客がないことを祈ろう。

「会議が多いって聞いたけど」
「本日はもう陛下が後宮入りされていておられないので、会議も入っておらぬよ」
「後宮あったのか!」

 立場的にあっておかしくないけど! やっぱり魔族の美女が集められてるんですかね。ちょっと気になる。どんな人がいるのか気になる、主に見た目が。
 てっきり会議が長引いてるのかと思ったら、今頃美女たちとギシアンしてるのか。

「閣僚を抑えるのに後宮は使いやすいからね。そのせいで拗ねてしまった君のお守りを私が仰せつかったことになっている」
「今後宮の存在を知ったのに!?」
「心配しなくても君が男妾だと紹介されてから、後宮からは目の敵にされているよ。今までは息抜きに一夜の相手に男を呼ぶことはあっても、男妾として傍に置くことはなかったからね」
「どこに安心材料があるんだ……」
「既に食事に毒を盛られているとも聞いている。君には関係ない話だが、フェリクスもいるから毒見は付けさせてもらっているよ」
「はい、それは有難うございます」
「君に警護はいらないだろうが、もし可能ならメイドにも加護を与えてもらいたい。あれは護衛も兼ねていてね、君が攻撃を通せないと分かれば、戦いようも変わるだろうから。陛下に許可は得ているよ」
「じゃあ折を見て与えられそうならやっとく」

 まだメイドさんには存在を認められていないから、今すぐは無理だろうけど。
 それにしても知らない間に戦いの火蓋が切って落とされていたとは…後宮恐ろしいな!

「しかし本当に男妾にするとはね、陛下も趣味が悪い」
「悪かったな、美点がなくて」

 ……ん? なんか言い方がおかしくなかったか?

「今のところ悪い影響は出ていないようだがね、疲れておられる陛下にしつこくキスを強請るのは如何なものか」
「待て待て待て、何の話だ」

 強請られたことはあっても、強請ったことはねぇよ!

「出かける際と、帰った際にもキスをするよう言っているのだろう? 陛下が見目麗しいのは分かるが、もう少し部を弁えてはどうかね」
「くっ……」

 確かに挨拶のキスをやり始めたのは俺だが、続行させたのはアルだぞ!
 ていうかあいつ、全部俺が強請ったことにしてやがるな!?
 まぁ……あの魔王様がこの宰相様に、自分が可愛くおねだりしてるなんて言えないわな……。

「フェリクスのミルクも飲んだというし、邪神様はよほど欲求不満と見える」

 否定したいけど、エロいことしてフェリのミルクを飲んでるのは事実で…。
 俺って欲求不満なんだろうか? どちらかというとその場のノリなんだが。誰も抵抗しないし。
 キスは気持ち良いけど、俺はイッたりしてないからなぁ。うーん。
 俺が首を傾げていると、視界からビクターが消えた。
 次いで、足の間から現れる。

「……ビクター様? 何をしてらっしゃるんです?」
「私も君の加護を受ける身だからね、一度くらい奉仕しておくべきかと思ったんだが」

 言いながら俺の前を寛げ、俺自身を取り出す。
 あまりの状況に、ぶわっと脂汗が出た。

「いやいやいやいや」
「ふむ、ここも随分と幼い」
「俺の種族だと普通だっての! 成人してこれだからね! ていうかお前らのと比べんな!!!」

 アルのは完全に規格外だしな! あれを受け入れられる女性はいるのか……魔族なら……いるのか?

「そういうことじゃなくて! そんなことしなくていい……っ……」
「れろ……ん……」

 ビクターが俺の竿を舐め、口に咥える。
 あのお綺麗な壮年の宰相様がである。自分の唾液を垂らして滑りをよくしている。……これは現実ですか?

「んっん……君は硬くなるのかね」
「っ、勃起したらな」
「そうか」

 亀頭を口に含むと、じゅぶじゅぶと音を立てながら、ビクターは顔を大きく上下させる。
 中では舌が蠢き、カリ部に纏わりついた。
 これはヤバイ。早くも降参したい。

「はぁ……っ……」
「ん……じゅぷ……じゅ……」

 いい年したおじ様が俺のペニスを咥えて扱いている。
 加護を与えてから、若干態度が軟化したとはいえ、いつも冷めた表情をしているビクターがだ。
 全く何を考えているのか分からない。
 気持ち良さに思考も働かない。
 ビクターの薄い唇がテラテラと唾液で光っている。どんな表情で俺を咥えているのかまでは見えなかった。

「じゅっ……んっ、……じゅっ」

 吸い上げては、いやらしく舌で亀頭を刺激される。
 窄められる頬。
 落ちた前髪がビクターの動きに合わせて揺れる。
 吸って、舐めて、いやらしい。
 口いっぱいに頬張って、舌を絡めて、時折鼻から抜ける声が、いやらしい。
 溢れた液がビクターの唇から糸を引いて落ちていく。

 ──いやらしい。

 俺の中で、何かが弾けた。

「んんっ!?」
「もっと」

 ビクターの頭を掴んで、腰を動かす。
 更に押し込めば、先端が喉に当たるのが分かった。

「ぐっ……ぅっ」

 ビクターが嗚咽にむせぶ。
 生理的に吐き出そうと震える喉が気持ち良い。

「そのまま吸って?」
「んぐっ……ぅうっ……」

 苦しさに顔を背けようとするのを許さない。
 俺はお構いなしに腰を振った。

「ふっ……あぁ……気持ち、いいっ」

 俺の足にビクターが爪を立てても、気にせず喉に打ち付ける。
 竿が口から出る度にじゅぷじゅぷと音を立てた。
 俺の睾丸がビクターの顔に当たるのが見える。

「ぐっ……ぅっ……うぅっ」

 ビタビタと睾丸がビクターを打つ。人の睾丸を自分の顔に当てられて、彼は今どんな気持ちだろう?それを想像すると気分が高揚した。
 きゅうっと苦しそうにビクターの喉が締まるのに合わせて、全てをビクターの口内に吐き出す。

「ごふっ……ぅく」
「飲んで」

 顎を掴んで上を向かせる。
 こくっと喉が動くのを見て、微笑んだ。

「おいしかった? 苦しそうだったけど……ねぇ、何でここ大きくなってんの?」

 跪いているビクターの足の間に足先を差し込む。
 おかしなことに、そこは屹立して存在を主張していた。

「苦しいのが好きなのか?」
「ぐっ……なにを、した」
「したのはビクターだろ? 俺のを吸って舐めながら、何考えてたんだ?」
「何も……」
「いやらしい」

 膨張したビクターの股間を足で踏む。

「くっ……ぅ……」
「俺で口いっぱいにして、喉突かれて喜んでたのか?」
「ちがっ……」
「じゃあこれは何?」

 ぐりぐりと足で弄ると、ビクターは紅潮した顔で俺を睨んだ。

「君が、私に……ぅあっ」
「うん、俺が?」

 靴を脱いでビクターを扱く。足の指を使って掴むように動かすと、ビクターが俺に凭れかかって来た。

「ふっ……ぁ……やめ……っ」
「気持ち良かったんだろ? ほら、ここは気持ち良いって言ってる」

 テントを張ったズボンに染みが広がる。
 片足で亀頭を弄りながら、尿道口を指先で押すと、じわっと水気が増した。

「ふふっ、良いじゃないか、気持ち良いなら。……気持ち良いことしよう?」
「な、何をする……っ」

 俺の足に縋り付くビクターを重力に任せて仰向けに転がした。
 長い角があるためか、咄嗟にビクターは床に肘をつき、上半身を起こす。
 力任せにそんな彼のズボンをずり下ろした。

「エロいこと。ほら俺、欲求不満みたいだし?」

 ビクターの中心を手で握ると、柔らかい。多少は硬くなってるんだろうけど、俺のと比べると全然だった。
 銀色の陰毛が部屋の照明にさらされて光る。
 竿を扱くと、ビクターが俺の腕を掴んだ。

「ごめんね、さっきから痛くないんだ」

 立てられた爪も本来なら血が滲んでいただろう。
 しかし相変わらず俺は無傷だった。

「あっ……ちがっ……んっ……ふ……」

 俺を傷付ける意図はなかったらしい。反射的に掴んだだけか。

「そういえば、こっちは使ったことあるの?」

 膝の下に片腕を入れてビクターの足を持ち上げると、俺の肩に掛けた。
 腰が浮いて露になった蕾に中指を入れる。

「なっ……く……最近は、ない……っ」
「じゃあ解さないとダメだな」

 指ぐらいなら簡単に入るんだけど。

「無理、だっ……あんな、硬いの」
「大きいのよりはマシだろ? それにビクターに比べれば俺、小柄だし」

 案外いけるんじゃないだろうか。潤滑油がないのが厳しいけど。
 指を増やして中の具合を確かめる。

「く……ぁっ……むりっ」

 ビクターは何時にも増して眉間に皺を刻んでいた。
 細められた目は潤んで、汗で髪が頬に張り付いている。
 普段澄ましてる人が、顔を真っ赤にして耐えてる姿って、良いよね。

「ごめん、勃った」
「ぅあっ」

 指を引き抜いて自分を宛がうと、勢いのままに挿入した。

「ひぐっ……っ……」
「くっ……」

 流石にキツい。
 手の中にあるビクターも力を失くしていく。
 ビクターの体が俺を拒んでいるのが分かる。

「っ、あー……でも、ビクターの中、いい」

 熱くうねって、痛いぐらいに締められて。
 自然と腰が動く。

「あっ、くっ……ぅ……動く、なっ」

 最初は揺らすように小さく。
 ゆっくり、ゆっくり。
 締め付ける力は強いけど、じわじわ馴染んでくるのを感じて、少し出しては挿れていく。
 次第に出し入れの感覚を長くして、ビクターの前立腺を探した。

「んっ……あぁ! ……あっ、あっ」
「ここ?」
「ふ……くっ……あっ、そこっ、あぁぁ!」

 ガクガクとビクターの膝が揺れる。
 見つけた場所に狙いを付けて腰を打つと、蕾からぐちぐち音が鳴った。
 俺が腰を打つ度、ビクターが声を上げる。

「あっ! あっ! そこ、いいっ……ひぁ……あぁっ! いいっ……くっ……ぅっ」

 ビクターの尖端からトロトロと液が溢れ出す。
 ラストスパートに両手で尻を押し広げるように掴んで、突き上げた。

「ひぅっ……くっ……あっ、あっ、あっ……っあぁあああ!」
「っ……」

 引き絞られる感覚にドクドクと心臓が早鐘を打つ。
 ビクターがイッた後も腰を動かして中に出した。
 瞼の後ろがチカチカする。
 ずるりと自身を引き抜くと、尖端に残っていた精液が垂れて、ビクターの後ろを伝う。

「ふぅ……」
「……満足したかね」
「ん、ねぇ、ビクター、自室に帰るまで、それ出さないでね」
「…………」

 俺の言葉にビクターは無言で居住まいを直す。
 俺が呼吸を整えている間に、ビクターは部屋に入ってきたときと寸分違わぬ姿に戻った。
 狐につままれたような気持ちです。
 射精後の倦怠感に眠気を呼び起こされてる俺と違って、ビクターの動きに乱れはない。
 立ち上がった彼に続けて声をかける。

「自室に帰ったら、中に指入れて掻き出して良いから」
「それが君の望みかね」
「俺の見てないところでさ、中に指入れて、いいところ自分で突いて良いよ」
「……君は……」
「俺は、ビクターが気持ち良くなってくれたら嬉しい」
「…………」
「ねぇ、ビクター」

 手を伸ばして、ビクターの指を取る。
 指先からかすかに伝わる体温が、彼が存在することを俺に教えてくれる。
 加護とは別に、直に触れる温度が教えてくれる。
 彼も感じてくれているだろうか。

「俺が何者かなんて、今更じゃない?」

 何を求め、どう影響力を持つのか。
 彼が知りたかったのは、それだろう。
 『邪神』なんだ。最初から、そうステータスに表示されている。何故かエロに特化されてるけど。
 俺がそう言って笑うと、ビクターは静かに頷いた。

『信仰がレベル7に上がりました』


◆◆◆◆◆◆


 ベッドの上で目が覚めた。
 ビクターを見送った後、ベッドにダイブしたらしい。掛け布団を被ってもいなければ、枕にも到達出来てない。
 広いんだよな、このベッド。俺が手や足を伸ばしたところで端にはつかない。
 視界にはシーツの海が広がる。夜は明けているようだった。
 アルが帰ってきた気配はないから、きっと後宮から仕事に行ったんだろう。
 ……寂しいなんて思ってない。
 ゴロゴロしていると、メイドさんが朝食を並べてくれた。量が少ないのは俺しかいないせいか。
 どうせならフェリを誘おうかな。
 俺はいつもならいる人物の心理的スペースを埋めるべく、メイドさんに声をかけた。

「失礼します」
「おはよう、フェリ」

 入室したフェリは俺におはようと返すと、いつもの定位置に腰かけた。

「ところでクルト様、その5つのコップは?」
「あー、気になるよね?」

 今俺の前にはミルクの入ったコップが5つ並べられている。ミルクの量はまちまちだ。
 だからビクター、仕事が早いって。
 俺なんか次に顔合わせたときどうしたら良いのか分からないのに。やり過ぎた自覚はある。自分でもどうしてあそこまで、はっちゃけちゃったのか分からない。でもアンアン言ってるビクターは良かった。

「ミルクですよね? ……フリーシアンの」
「それも男のな」
「え!?」

 女性のだと思っていたのか、落ち込んだ様子だったフェリの表情が驚きに変わる。

「俺の味覚がおかしいの宰相様に話が伝わってさ、それなら他の人のも飲んでみてくれって」
「……僕がいるのに」

 フェリはどちらにしても不満そうだ。
 尻尾がぺしぺし椅子に当っている。

「お試しだから。な?」
「ずっと飲むわけじゃないよね?」
「量が少なめといえ、流石に毎朝これだけ飲み続けるのは俺も辛いよ」

 時間が経つにつれフェリが不貞腐れてしまうので、とっとと飲み切ってしまおう。
 コップに手をやると、スッと一枚の紙とペンがメイドさんにより差し出された。

「味の評価をお聞きするよう承っております。口答頂ければ私の方で代筆させて頂きます。右端のコップからお願い出来ますでしょうか」
「お、おう……」

 言われた通り右端から飲み始める。フェリの視線が痛い。
 まずは全体の味をみようと、順に一口ずつ味を確かめた。

「んー……不味くはないけど、全体的に薄い……」

『信仰がレベル8に上がりました』

 待て、何故このタイミングで上がった!?
 フェリ……は違うだろうから、もしかしてメイドさん?
 そちらに目をやっても、メイドさんの表情は変わっていない。美しいポーカーフェイスである。しかしいつもは感情を表さない尻尾が大きく左右に振れていた。
 思うんだけど、どれだけ顔を作っても尻尾で感情がバレるってどうなの?
 何にしろ、今彼女の心に動きがあったのは確かだ。
 不味くて飲めないと言われている男性のミルクを飲んだからか? え、飲んだら認められるぐらい不味いものなの?
 甘みもフェリのと比べると全然なかったけど、飲めないことはない。
 味が薄く感じるのは魔素の量が少ないからだろうか?

「フェリって、他の人と比べたら体内魔素の量ってどうなの?」
「フリーシアン男性の平均で言えば、少し多いくらいかな。どうして?」
「魔素の含有量で味が変わるのかなと思って」
「それなら計測器にかけるのが正確だと思うけど、味が変わるほど魔素量に差はないと思う。そんなに違うの?」
「違う」

 フェリのミルクが、瓶で配達される産地直送のものならば、今飲んだものはスーパーで安く売られている低脂肪乳といった感じだ。

「風化したりするのかな?」
「お持ちしたミルクは全て今朝搾られたものと聞いております」
「そ、そう」

 朝一で用意してくれたわけですね。後は何が考えられるかな……。

「搾乳機使ったとか?」
「申し訳ございません、聞き及んでおりません」
「いいよ、俺が疑問に思っただけだから。個別に評価つけるのも悩むけど、とりあえずこの中では、これが一番飲みやすかったかな」

 後は粘度とか分かる範囲の差を伝えていった。
 果たしてこの評価が生かされることはあるのか?俺しか飲めないのに。

「有難うございます。間違いがあってはいけませんので、フェリクス様、ご一読願えますか?」
「分かりました」

 メイドさんから紙を受け取ると、フェリは真剣に目を通していく。一文字の間違いも許さないような気迫にちょっと引きかけるが、宰相様に渡る書類だと思うと納得する。
 ビクターに渡されるんだよね?

「間違いありません」
「有難うございます。では私が責任を持って、提出させて頂きます」

 そう言うとメイドさんは一礼して出て行った。

「クルト様、さっきの搾乳機を使ったかどうかだけど……」
「あぁ、フェリなら分かったりするのか?」
「いや、搾乳機は女性が使うものだから、男性用のはないんだよ。併用することも出来ると思うけど、使わせてもらえないと思う」

 ……ビクターなら用意しそうだけどな、流石にこの短時間では無理か。多分無理だろう、うん。
 試飲が終わったからか、フェリはご機嫌そうだ。

「じゃあ手搾りだよなぁ。直に飲むか飲まないかでも変わるんだろうか」

 フェリのは毎回直に飲ませてもらってるし。
 どう思う? と問いかけると、フェリは笑顔のまま固まっていた。

「フェリ……?」
「クルト様、いくら相手がフリーシアンだと言っても、直に飲ませてくれなんて僕以外の人には絶対言っちゃダメだよ。特に男性相手には」

 なんだろう、フェリの笑顔が怖い。いつもの優しい笑みじゃない。

「襲われたりしたらどうするの?」
「は…? ないだろう、俺相手に」

 直に飲ませろなんてセクハラ以前の問題だよな、と俺は考えてたんだけどフェリの見解は違うらしい。
 誰がこんな魔族に比べればみみっちぃ俺を襲うんだ。しかも外見は人族だぞ。

「クルト様は自分の魅力を自覚するべきだよ」
「あのな、前にも言ったけど……」

 ふと邪神のアビリティを思い出す。
 フェリが言ってる魅力って、もしかして俺の催淫能力のことか? 確かに俺と一緒にいてエッチな気分になるなら、それを魅力と勘違いしてしまうのも頷ける。
 まぁどちらにしても、襲われたところで俺のダメージは0だ。

「何にせよ、大丈夫だって。俺これでも魔王様の男妾だし」
「それは……そうだけど……クルト様、無邪気なところがあるから、ほいほい連れて行かれないか心配で」
「フェリの中で俺って何歳設定なの?」

 子供か! ……ミルク飲ませてもらってる立場を考えると否定出来ないけどさ! 見た目的にアウトだと思う。

「だってクルト様可愛いし……」
「しかし評価なんか聞いてどうするんだろうな?」
「無視した!?」
「フェリは一回お医者さんに目を診てもらいなさい」
「うぅ……絶対陛下も思ってらっしゃるのに……」
「それこそないだろ。宰相様だって俺の見かけ全否定だぞ?」
「それはビクター様がおかしいんだよ」

 自分の国の宰相様をおかしいと断言するな。
 養殖は建前だというのに、まだ心象が悪いんだろうか? 俺がそのことについて聞くと。

「心象っていうか、トラウマっていうか……。子供の頃から、悪いことしたらビクター様のところに行かせるぞって言われて育ったから……」

 何その鬼扱い。なまはげのところに行かせるぞ! 的なことですか。
 ビクター、俺はやっぱり割りに合わないと思うよ……。

「てことは、フリーシアンの話をしてくれたとき、俺がフェリを嫌がったら、フェリはそんな怖い人のところに直談判しに行ってくれる気だったのか?」

 ともすれば、本当に自分が行くことになるかもしれないのに? ……実際は保護なわけだけども。

「そういうことになるかな。正直クルト様の所へ行くように言われて、色々諦めてたから。自暴自棄になってたところもあるよ。ただクルト様が想像してたのと全然違う感じだったから、僕みたいなのじゃいけないんじゃないかって思い直したんだ」
「フェリも自己評価低いよね」

 こんなに人に親身になれる人なのに。
 今まで散々身内に虐げられてきたのが一番の理由だろうけど。

「そのときから心境は変わった? あと、ちなみにどんなの想像してた?」
「うん、今はどうしたら少しでも長くクルト様に仕えられるだろうって考えてるよ。想像してたのは…もっと自分本位で我侭な人かな。魔王様の男妾って言うぐらいだし。まさかこんな可愛」
「それはもういいから」
「むぅ」
「フェリの俺への印象はよく分かりました」

 あと美的感覚については信用出来ないことがな!

「そうそう、あとミルクの評価についてだけど、フリーシアンにとって自分のミルクの評価は無視出来ないものなんだ。味や魔素量、栄養面などの観点から誰が一番優れているか毎年発表があるくらいで。もちろん男性はないけど、やっぱり飲んでもらえるなら、どうなのか気になるよ」
「フェリのが断トツに一番おいしかった」
「ふふ、有難う」

 照れて頬をほんのり染めながら笑うフェリは色づいた桃の花のように愛らしい。
 男とか関係なく食べたくなるよね。性的な意味で。

「じゃあ最後にこれ食べるか」
「それは……タラン?」

 ミルクと一緒に用意されていた薬草を手に取る。
 だからビクター仕事が早いって。
 小さく砕かれているので、元の形状は分からないが、フェリには何の薬草か分かったみたいだ。

「知ってるのか?」
「うん、魔素含有量が多い薬草で、とにかく苦いことで有名だよ。普通は何かに包んで摂取するんだけど、まさかそのまま食べるの?」
「そのつもりだけど……そんなに?」
「……少し舌にのせるぐらいにしたらどうかな」

 そんなになのか。
 魔素含有量が多いなら大丈夫な気がするんだけど……うーん。
 俺はフェリの助言に従って、ひとかけらだけ舌の上にのせた。

「どう?」
「…………ふわっ!!!!!!!」

 口が閉じられない。
 本能的に体が閉じてはいけないと言っている。
 吐き出したいけど、舌を動かしたら滲み出た苦味が広がりそうで怖い。自然と涙が浮かんでくる。

「クルト様、こちらにお出しください」
「ふふぇ?」

 どうしようと焦っていると、メイドさんが布を持って来てくれた。
 それを取って、布越しに舌にのせた薬草を取る。

「飴をどうぞ」
「あ、有難う……」

 次いで差し出された飴を口に入れると、強張っていた体の力が抜けた。

「飴も用意してくれてたんだ?」
「小さい子供には薬の後に必ず与えるものですので」
「……ふふっ」
「フェリ、聞こえてるぞ」

 つうか俺が口を閉じられなくなった辺りから、肩を震わせてたの見えてたからな。
 子供扱いについては、もう何も言うまい。おかげで助かったんだし。
 そして何となくメイドさんの視線が慈愛に満ちている気がする。

『信仰がレベル9に上がりました』

 早いよ! エロいことしなくても上がるのかよ!
 理由はなんだ……メイドさんの母性愛をくすぐったとかかな。

「ごめん、すごく……分かりやすい反応だったから……っふふ、もう苦くない?」
「おかげ様でな!」

 コロコロと舌の上で飴を転がす。
 しかしひとかけらでこの威力……凄まじいことである。

「口直しに僕のミルク飲む?」
「……もらう」

 俺が頷くと、フェリは立ち上がって俺の前に来る。
 相変わらずメイドさんは音も無くいなくなっていた。
 薬草は他の食べ物と同様に一般的な味覚と変わらないということは、やっぱり体液にだけ味覚が変わるのか。

「どうぞ」
「ん……ちゅぅ」

 俺は一旦口から飴を取り出して差し出された乳首に吸い付く。
 ちゅうちゅうと音を立てながら、舐めたり吸ったりしていると、フェリが俺の頭を撫でた。

「……はっ……クルト様、飴もらえるからって、知らない人に……っ……ついて行ったら、ダメだよ? ……ぁんっ」

 フェリが俺を子供扱いするのは、この授乳のせいか。
 あまりにもなので、俺が大人だということを思い出させようと、フェリの中心にも手を伸ばす。

「あっ! だめっ、そこ一緒に触っちゃ……あぁんっ!」

 覚悟しろよ……!


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