001

※シモの表現があります。苦手な方は回避してください。初っ端はヘビとかが相手ですので、苦手な方は002からどうぞ。



 結論から言おう、オレはピンクスライムに転生した。

 鬱蒼とした森の中にいることは、全方位に広がる視覚から分かる。ピンクスライムに『目』はないはずだから、周囲を感知する感覚が、前世の記憶のせいで視覚に置き換えられているのかもしれない。よし、音も問題なく聞こえるな。
 にょっと体を歪ませれば、伸びたゼリー状の体の一部を見ることも出来た。
 今いる場所は比較的開けているが、少し体を移動させるとすぐに草が体内に入り込む。何とも言えない感覚だが、ピンクスライムである以上仕方ないか。

 前世では魔王の右腕として地位を築いていたが、魔族・人間問わず男を犯しまくっていたので、この転生は当然の結果かもしれない。
 あえなく魔王も勇者の剣に倒れたしな。
 オレの最期はどうだっただろうか? 勇者パーティーに好みの男がいて、舌舐めずりしたところまでは覚えてるんだが。

 まぁいいか、今のオレはピンクスライムだ。

 前世の記憶なんて関係ねぇ。今世のオレはピンクスライムとして、男を犯しまくればいいだけの話だ! いいね! ややこしい世情なんて関係なく、ただ本能のままに生物を犯して生きるだけのゼリー状生物! オレ、ピンクスライム!
 こんな素晴らしい生命体に生まれ変われたことを、誰に感謝したらいいのやら。
 しかも普通のスライムじゃなくて、ピンクスライム。

 普通のスライムは水色のゼリー状で、生物の生気を吸い取って生きることぐらいしか、特筆する点はない。物理には強いが、火炎や氷結魔法には弱い魔物だ。
 けれどピンクスライムは違う。名称の通り、ピンク色のゼリー状のこの生物は、スライム同様魔法に弱く、魔物の中では最弱に分類されるが、その生命活動はなんと、生物が放つ精気を吸い取ることで行われるのだ! 普通のスライムと違って相手を殺したりはしない! なんて心優しい生き物! まぁ殺しちゃうと精気吸えなくなるからな。んでもって精気も奪い過ぎると、相手が死んじゃうことには変わりないんだが。
 しかし一番特筆すべき点はコレだ。

 ピンクスライムには『催淫効果』があるのだ!!!

 水に薄めて少量を飲んでよし、夜のお供に体を這わせてもよし。
 その効能はお墨付きで、魔族・人間関係なく大人気の生き物だった。
 だがいかんせん、人気過ぎて乱獲され、今は希少生物となっている。
 そんな種族問わず愛されラブリーなピンクスライムに、オレは生まれ変わった。
 だとしたらやることは一つ。

 男を犯す! そして繁殖して、子孫を残すのだ……!

 別に女が嫌いってわけでもないから、前世でも子孫は残している。魔王が敗れた今は、子供たちが魔族を率いてくれているだろう。魔族は子供の出生率が低いが、種族を気にしなかったおかげで一ダースも残せたオレは偉いと思う。やっぱ選り好みはいかんな。数打ちゃ当たるのだ。

 スライムの繁殖については、生命力が上限に達すると体が分裂し、新しい個体になることが分かっている。ということは、オレにも『元』となる個体がいたはずだが、周囲には見当たらなかった。別に元の個体のことはどうでもいいか。
 ピンクスライムの生命力を溜める方法は簡単だ。

 生物から精気を吸えばいい。

 生きるためにも、繁殖するためにも、それは不可欠だった。
 ピンクスライムの唯一無二の生物としての意義。ここまで来ると清々しいな。
 仕事しろと責められることもなく、精気の搾取だけしていればいいのだから……ピンクスライムって最高!!!

 万歳をする代わりに、ピンク色の体を弾ませたところで、藪から葉の擦れる音が聞こえた。
 ちょうど獲物が来たみたいだし、小手調べといくか。

 藪から姿を現したのは、細長い肢体をくねらせながら地面を進むヘビだった。
 緑色というよりは茶色い見た目をしている。

 へ、ヘビ……? ヘビって犯せるのか???

 髪の毛が複数のヘビからなるメデューサなら魔族にもいるが、ヘビの生体なんてオレは知らないぞ。ちなみにメデューサは髪の毛がヘビでも、体は他の種族と変わらないので普通にヤレる。

 戸惑うオレの横を、今にもヘビは通り過ぎようとしていた。大きさ……長さは、一メートルぐらいか?
 ニョロニョロと進むヘビは、雄なのか雌なのかすら分からない。
 しかし……ピンクスライムとしての勘が、オレを動かした。

 ゼリー状の体を伸ばし、ヘビに取りつく。
 突然体をゼリー状の物体に包まれたヘビは驚いたのか、とぐろを巻き出した。

 ふはは、残念だったな、ピンクスライムに物理は効かないんだ!

 ヘビがオレを押し潰そうとしているのもなんのその、どこかに突っ込める穴はないか探っていく。最悪口でもいいかと思っていると、ヘビのモノを発見した。

 いよっしゃぁあああ! コイツ、雄だぁああああ!!!

 しかも並んで二つある。ヘビってペニスが二つあるんだな。
 ヘビが雄だと分かり、俄然意欲が湧いてくる。
 後は穴だ……突っ込む穴さえあれば……。
 しばらく体をまさぐり続けていたからか、とぐろを巻いていたヘビは、力が抜けたようにとぐろを解きはじめた。……もしかして催淫効果が出てるのか?
 これは面白いと反応を楽しみながら、ヘビの脊椎をなぞっていく。
 途中、ピンク色のゼリー状の中に、ぷにょっと何かがヘビから排出された。二つのペニスからではない。これは…………。

 コイツ脱糞しやがった!?

 ちょっと! オレの体内に何入れてくれてんだ!?
 ごく少量だったとはいえ、気分がいいものではないので、ぺぺっと外へ出す。
 まぁ小石や土が中に入ったのと大して変わらないんだけど。ゼリー状の体なので、意図せず何かが入ってしまうのは、仕方のないことだった。
 しかし脱糞するほど気持ちよかったのか? とヘビをも昇天させられる己のポテンシャルに満足しかけて、ハッとする。

 アナル! アナルを見つけたぞぉぉおおお! これで突っ込めるぅぅうううう!

 脱糞するには穴が必要だ。見事後孔を見つけることが出来たオレのテンションは、一気に上昇した。
 今世はじめての獲物だ。
 催淫効果どころじゃない快楽を覚えさせてやる!
 意気揚々とヘビの後孔を探り、鼻息を荒くする気分でいざ挿入を試みた。

 あ、あれ……? ピンクスライムの肉棒ってどこ……?

 ピンクスライムは、全身がピンク色のゼリー状の生き物だ。
 その体は催淫効果があるという特徴を持っているが、見た目はぷるんっと艶ののったゼリーでしかない。

 に、肉棒……オレの肉棒……。

 オレは愕然とした。
 想像してみて欲しい、行為の真っ只中、体も火照り──ピンクスライムの体が火照ることはないが──気分も最高潮に達したとき。
 ここぞ! というときに、モノが使い物にならない衝撃を。
 その絶望感たるやいなや、気を失いそうになるほどだった。

 肉棒がなくて、どう突っ込めっていうんだよ!!!!!

 返せ! オレの相棒を返してくれ……! 赤黒くて、見た目は若干グロテスクかもしれないが、勃起時の硬さと太さで、ありとあらゆる種族を悦ばせてきた名器だったんだぞ!?
 あぁ、最高だと思ったのに。ピンクスライムに転生して、これほどの幸福はないと喜びを感じていたのに。
 肝心の肉棒がないなんて……ガッカリだ。こんな仕打ちがあるかよ。今後、一体何を楽しみにオレは生きていけばいいんだ?

 意気消沈する中、手慰み程度にしかならないが、ヘビの後孔に入るよう細く伸ばしたゼリー状の体を挿入する。
 するとそれだけでヘビは痙攣し、左右一対になったペニスから精液を吐き出した。
 トコロテンかよ……。
 肉棒を使った結果なら、大いに満足出来ただろうが、オレの気分は晴れなかった。
 なのにヘビの精気を吸収した、ピンクスライムの体には活力が漲る。

 く、悔しい……でも元気出ちゃうっ。

 体から放出される目に見えない精気が、精液には凝縮されているので仕方ない。
 ふぅ……と息をつく暇もないまま、全身にヤル気が満ちたオレは、くったりと体を投げ出しているヘビは放置して、次の獲物を探しに行くことにした。

 結果──本日だけでヘビ、ウサギ、シカ、イノシシとの性交渉に成功しました。

 肉棒は使えなかったけど。相手は魔族や人間ですらないけど。
 だって仕方ないだろ、森には魔族はおろか人間もいねぇんだから! 視界に入る生物に、片っ端からゼリー状の体を伸ばすしかなかったんだよ!
 昆虫は流石にピンクスライムでも気分がノリませんでした。多分精気を吸収出来たところで大した摂取量にならないからだろう。

 色々相手して驚いたのは、動物と比べてもヘビの精気量の方が多かったことだ。
 精液自体は少ないのだが、そこに内包された精気は素晴らしいものがあった。
 伊達にペニスが二つあるわけじゃないんだな。見直したぞ、ヘビ。
 肉棒がない寂しさに、心にはポッカリと穴が空いてしまっているものの、腹は満腹になったので、目覚めた場所に戻ってきた。

 すると見覚えのあるヘビが、オレを待ち構えているではないか。

 ヘビはオレを見つけると、いそいそと近づいて来る。
 首の辺りが妙にぽっこりしているので、獲物を食べた後らしい。
 ヘビはピンクスライムの体に巻きついてきたが、オレも腹いっぱいだったので、彼の好きにさせた。
 ヘビは以前のようにオレを押し潰そうとはせず、体を登り切るとオレの上でとぐろを巻いて鎮座する。……うん、どうした?
 意思の疎通など出来ようはずもないので、状況から察するしかない。
 しかし害がないなら気にする必要もないので放置した。

 ピンクスライムの体は自然の摂理に則っているのか、腹がいっぱいになると欲求に苛まれることはない。後はただ身の安全を守られればよかった。
 わざわざピンクスライムを食おうとするヤツは魔族か人間しかいないので、のんびり緑に覆われた森の中の景色を眺める。といっても身長が三〇センチぐらいしかないのもあって、見える範囲は限られた。それでも全方位見ることが出来る体は、動くことなく空も眺められる。
 木の葉の間から見える空では、白い雲が流れていた。

 あぁ、これで肉棒さえあればなぁ……。

 それだけが心残りだ。
 ピンクスライムに限らず、スライムには性別がないのが原因だろうか。
 でもオレは肉棒が欲しい。
 肉棒を使って相手を制圧する快感、身の内から溢れる熱を外に放出する汗が引くような爽快感。その記憶がある内は、諦めきれない。
 どうにかしてこの体にも肉棒を生やすことは出来ないものか。

 ゼリー状の体でも、ヘビや動物を犯すことには成功した。けれどそれはピンクスライムの持つ催淫効果のおかげだろう。
 体の中に木の枝でも入れて使うか? でもやっぱ自分の体だけでヤリたいよな……。
 道具を使うのもプレイの一つとしてはアリだが、やはりスタンダードなプレイを一番に楽しみたい。ピンクスライムな時点で、スタンダードもへったくれもないが。
 オレは自分の体、能力だけで相手を犯したいのだ。

 どうしたものかと悩んでいると、また鬱蒼と生い茂る藪が揺れた。
 ヘビかと思ったが、ヘビは依然としてオレの体の上に乗っている。
 今度は何が現れたのかと眺めていたら、藪から姿を現したのはゴーレムだった。

 また人外かよ……。

 魔族か人間が通りかかってくれないものか。
 目覚めた場所だし、ここを拠点にしようかとも考えていたが、移動した方がいいかもしれないな。
 ゴーレムはオレなど眼中にないのか、悠々とオレの横を通り過ぎようとしている。
 機械仕掛けのゴーレムを犯してやろうという欲求は湧かないが、何となくゼリー状の体を伸ばして捕まえてみた。相手は物理特化なので、攻撃されても今のオレには無効だ。石や砂利を体に含ませてゴーレムの間接に体を流し込む。

 グガッ。

 鉄などの金属や石で作られた無骨なゴーレムは、関節の動きをピンク色のゼリーに阻まれ、呆気なく鈍い音を立てながら動きを止めた。ふっ、たわい無い。
 一応フォローしておくと、物理攻撃が効かないのはゴーレムも同じなので、魔法や怪力がない限り、人間や魔族にとっては中々骨の折れる相手だ。
 ただスライムとは相性が悪かったようだな。
 ここまで簡単に動きを阻害出来ることを考えると、ゴーレムにとってスライムは天敵かもしれない。
 それにしても……。

 ゴーレムは基本的に、建造物の近くに生息する魔物だった。
 しかしこの辺りを動物を犯しながら散策した限りでは、ゴーレムが出現するほどの建造物はなかったように思う。
 だとしたら少し離れた場所からコイツはやって来たのか?
 野生のゴーレムは、出現した場所から離れることはないので、それも腑に落ちなかった。
 残る可能性は魔術師によって人為的に作り出されたものか。
 魔術師によって作り出されたゴーレムは、野生のゴーレムが出現した場所を基点に動くように、魔術師を基点として動く。
 魔術師が移動すれば、自ずとゴーレムも同調して動いた。
 しかし移動距離は魔術師が描いた魔方陣に準ずる。
 果たしてこのゴーレムが魔術師製だった場合、魔術師とどれだけの距離を保っているかが問題だ。オレが犯しに行ける距離だったらいいんだが……。

 ピンクスライムの体は相手を選ばないといっても、オレとしてはやっぱり魔族か人間を専門にしたい。そっちの方が効率もいいと思うし。ヘビのコスパも捨てたもんじゃないけどな。
 すると体の上のヘビが、呼んだ? と言わんばかりに、顔を上げてオレを覗き込んできた。いや、呼んではいないから、じっとしてろ。
 オレの考えが通じたのかは分からないが、ヘビは頭を引っ込める。ヘビは少しずつ食べたものを消化してるのか、首の辺りにあったコブが小さくなって下っていた。
 コイツは一体いつまでオレの体の上にいる気なんだ?

 上部の視界がヘビで遮られているのを感じつつ、暇つぶしにちょっかいを出したゴーレムを見る。
 動きを止めたのはいいものの、後のことを考えていなかった。
 別に恨みはないし解放してやるか、そう思い手を引こうとしたとき──。

「おい、どうした?」

 人間きたぁあああああああ!!!!!!!