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■月のない路 遙夏NOVEL■

 もう!あたしが借りた本を綺麗に直してないっていうけど、絶対お兄ちゃんの 勘違いだよー。お兄ちゃんから借りた本をグチャグチャに返すわけないじゃん…。


 ダメだなー、もっとあたしを見てくれなくちゃ。


 なーんて無理だよねぇー…。
 うぅ、自分でいって悲しくなってきた…。
 もう勉強しよう勉強!


 カサカサカサ
 聞き覚えのある嫌〜な音が耳をかすめる。


 う゛ッ!?
 こ、この音は…。


 て、あぁ!!?


 バサバサバサ
 音の方へ目をやると、風に吹かれて紙が乱舞していた。


 やだッ!?何で楽譜が飛んでっちゃうのぉッ!!?


 趣味で集めていたピアノの楽譜が次々へと部屋の中を舞っていく。


 あれ?もしかしてぇ…。


 あー!やっぱり窓開いてるぅ!?
 もう、ママかなぁ?
 自分で開けた覚えはないし…。



 窓の方へ視線を向けながら、手だけを忙しなく動かして紙を集める。


 ッ!?


 あーん、指切っちゃったぁ。
 新しくない紙でも指って切れちゃうんだねぇ…。
 て、関心してないでッ、バンソウコウばんそうこう!


 傷ついた片手を庇いながら、救急箱を捜す。


 ん?そういえば…、もうあの音がしないってことは。
 さっきのカサカサ音はゴキちゃんじゃなくて紙が飛ばされそうになってた音かぁ!
 あぁー良かった。
 ゴキちゃんだったら大騒ぎになってたところだよ…。


 えーと、バンソウコウはっと。
 あったあった。



 …あれ?
 傷が消えてる?


 庇っていた手を見ると傷はなく、いつも通り何の変哲も無い手がそこにある。


 気のせいだったのかな?血もちょっと出てたと思ったんだけど…。



 ま、いっか。


 そこで、ふとタンスの上に飾ってあるクマのヌイグルミへ視線を向けた。


 ……お前も、すぐに直ったら良いのにね…。


 あともうちょっとママにお裁縫習って、上手くなったらすぐ直してあげるからね!
 …初めて、お兄ちゃんがくれた誕生日プレゼントだもん。
 やっぱり自分で直さないとね!


 開いている窓からは相変わらず風がなびいていた。



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