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■月のない路 尚生NOVEL■

 行かなくてはいけない─…




 あそこにはッ!!?




 今すぐにでも駆け出したかったのに、足がすくんで動けなかった。




 ぽたぽたとシーツに落ちる音で、自分が泣いているのだということに気が付いた。


 目が覚めた。
 どうしようもないくらい悲しい夢を見た気がした。
 胸がかきむしられるような…、もどかしくて悲しい夢。
 どうにかしたいと思った抵抗が”起きる”という形になった。


 まだ、外は暗い。


 外の暗さが何故か余計に不安をかきたてた。
 自分はいつからこうやって起きていたんだろう…。
 夢を見ていたという感覚はあっても、起きたという感覚がまるでない。


 泣いている、という感覚もなかった。


 怖かったという思いはない。
 ただむしょうにどうにかしたい気持ちになった。
 それと同時にとても悲しかった。
 何がどう悲しかったのか分からないけれど…。
 確かにそのときはそう思っていたのだ。


 涙は止まったが、まだ心臓はドクドクと脈打っている。


 気持ち、悪い。
 吐き気がするとか、そんな気持ち悪さじゃなく。
 気分がどこかふわふわとしている感じが、気持ち悪い。
 まるで自分が重力に逆らって浮いているかのよう…。


 ふと…、何かを壊したい衝動に駆られた。




 ガタンッ




 本立てが倒れる。
 バタバタとカーテンが波打ち、風の訪問を告げた。


 そういえば窓、開けっ放しだったっけ。
 まだ残暑が残る季節。
 クーラーをかけるほどではないが、やはりまだ蒸し暑い。


 涙を拭って、倒れた本立てを直しに行く。


 目が…すっかり覚めたな。


 あれ?
 遙夏の奴、また勝手に借りていきやがったな。
 戻すんだったら綺麗に並べとけって。


 変に間隔が空いていた辞書を整頓し直す。
 どうやら普段本立てのストッパー代わりをしていた本がズレていたらしい。
 だからあんな風で倒れたのか。
 アルミで出来ている本立てが少々のことで倒れることはまずないはずだ。


 本を並べ直して、次いで窓へと向かう。
 風に揺らめくカーテンを開けると、ボヤけた三日月が見えた。
 サラサラと入ってくる風に髪がなびく。
 目を閉じると、風が今までの気持ち悪さを取り払ってくれるような気がした。



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